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第17話

肩で息をしながら何とか数歩進んだ時だった。 「待て」 部屋から出てきた男に大きな手で腕を握られていた。 そしてその触れた場所から一気に甘い痺れが全身を駆け巡り、周囲が恐ろしい程の甘い匂いに包まれた。 体調は少しは良くなったと思っていたが急激に目眩の様な物を感じ、祐羽の体から一気に力が抜けて倒れそうになる。 床への衝撃を覚悟して目を閉じた祐羽だったが痛みは訪れる事はなく、代わりに先程からの甘い匂いが恐ろしい程に濃くなった。 「おいっ、目を開けろ」 体を軽く揺さぶられ重い瞼を開くと、男の逞しい腕に抱かれていた。 「この匂いを抑えろ」 ――匂い…?それを言うなら、あなたです。 甘い匂いは男から香って来ているはずが、相手は逆に祐羽に匂いを抑えろと言ってくる。 お互いがお互いに甘い匂いを感じているという不思議な事態に、祐羽は益々混乱していく。 「ここじゃ不味い」 男は舌打ちして顔を顰めると、祐羽を抱き抱え室内へと入る。 スイートルームなだけに特別豪華な造りの室内を横切るとベッドルームへと辿り着き、広いベッドへと祐羽は下ろされた。 その間にも甘い匂いは増していったかと思うと、祐羽の全身が尋常ではない熱さで火照り始める。 「おい、薬は?!」 ――薬? 訊かれても既に脳は正常に働かなくなっており、何の事かと疑問を浮かべたまま男の顔を見るしか出来ない。 男はその整った顔に片手を押し当てて鼻と口元を押さえ、険しい表情を見せていた。

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