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第25話

これで交尾をしなくて済む事実にホッとしていれば、眉間に皺を寄せた男がいきなり祐羽の首筋に鼻先を寄せて来た。 「ひゃっ?!な、何ですか?!」 突然の事に変な声を上げて少し仰け反った祐羽は、何をするんだと恥ずかしさもあって顔を真っ赤にして抗議すると、男は至極真面目な顔で考える様子を見せた。 「匂いが無くなったな」 「匂い?」 その呟きに祐羽は、言われてみれば…と鼻をヒクヒクさせて匂いを辿るが、あれ程濃厚に脳と体を刺激し支配していた甘ったるい匂いは薄くなっていた。 部屋には微かに残っているが自分の体からの匂いは無く、いつもの未熟な発情期と変わらない。 これで本当に一瞬でしっかりとした発情が終わってしまった。 その事に祐羽はふと『これが正しいΩなのか?』という疑問が浮かんだ。 いつか好きな人が出来た時に、きちんとした発情が来なかったら? 来たとしても今回の様に突発的な一瞬だけの物だとしたら? だとしたら自分は好きな人と結ばれる事が出来るのだろうか…。 αがΩを求めるのは本能ではあるが、αの子どもを産んで次世代に繋いでいく使命を持っているからこそ、Ωは強く求められるものだ。 ――もし、こんな事が続くとしたら…いや、今回で発情が終わったとしたら? 「クソッ、余計な事を」 突然悪態をついた男に、考え事をしていた祐羽はビクッと肩を震わせて一気に思考を現実に戻すと視線を向けた。 大きく息を吐き出し体を起こした男はベッドから降りると「待ってろ」と吐き捨てる様に言うと、残り香に多少苦しみつつも部屋のドアを開けて出て行ってしまった。

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