26 / 31
第26話
出て行く男の後ろ姿を見送り安心した祐羽は、緊張して強張っていた体から力を抜くとベッドへそのままポテリと倒れた。
「終わった…」
初めての行為に戸惑いと怖さを感じていたはずで、これ以上何もされない事に安堵したはずが、おかしな事に祐羽の心が少し痛んだ。
ひとり残された広いベッドの上で、なぜ痛むのか分からず胸に手を当てて、内心首を傾げた。
何だか寂しい気持ちが湧き上がってきて、泣きたくなる様な、この切ない気持ちは一体どういう事だろうか。
――本当の発情が来たからホルモンのバランスがおかしくなったんだ、きっと。
発情期になると本能で相手を求めておかしくなるという定説を思い出し頭では納得するが、心は変にズキズキと痛み寂しくて落ち込みそうになる。
この気持ちが落ち込んでしまった理由が分からずモヤモヤした祐羽が思わず「う~っ、分かんない!」と泣き言を漏らしていると、ベッドルームのドアが乱暴に開け放たれ男が戻って来た。
「おいっ、起きろ。これを飲め」
そう言って差し出されたのは水の入ったグラスと薬だった。
「抑制剤を貰ってきた。緊急用だが少しの間なら効くはずだ」
どうやらホテルのフロントへ出向き抑制剤を貰ってわざわざ自ら持って来てくれたらしい。
本当なら理性が保てなくなる可能性から、こうして発情したΩに対しては近づくのは危険と判断してβやΩが薬を渡す事が多いらしいが、この男は自ら手渡しに来た。
祐羽が少し上目で相手の様子を伺うと、男は少し疲れた陰はあるものの先程とは違い落ち着いた表情を見せていた。
ともだちにシェアしよう!