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第8話
月日は経ち、二年に進級した。
入学式の日には20人いた同級生も8人しか残っていない。
ミケは相変わらず成績優秀で学園始まって以来の秀才として、教師、講師陣からの信頼が厚かった。
次期生徒会長の呼び声も高い。
しかし、しゃべることはできないままだった。
ライアンとも必要以上に意思疎通することもなかった。
初夏が近い、晴天のある暑い日。
ミケに発情期が来た。
同室のライアンがいち早く気づいた。
ライアンはα。
ミケの発情期のフェロモンに充てられ、無意識のうちにミケを組み敷いていた。
「フゥー、フゥー」
熱い吐息がミケにかかり、目を覚ます。
血走った目をしたライアンの顔がすぐそこにある。
入学したばかりの強姦事件を思い出した。
「ンーっ!ンーっ!」
ミケは必死にライアンの体を押したが体格差がありすぎてびくともしない。
必死に抵抗していた時、ミケの右の拳がライアンの左頬に当たった。
ミケは意図してやったわけではないにしろ、人を殴ったのは初めて。
激しく動揺していた。
ライアンは殴られたことで僅かながら理性を取り戻し、自分が今何をしようとしているのか察知した。
自分の右腕に噛み付くと、そのまま肉を食いちぎった。
ボタボタと血が流れる。
その様子を下から見上げていたミケは顔面蒼白になっていた。
「ミケに怖い思いをさせてしまい、申し訳ない」
フルフルと首を横に振る。
「今貴殿には発情期が来ている。しばらく自分は他の部屋で生活する故、安心してほしい」
再度フルフルと首を横に振る。
そして、血が滴り落ちている右腕にそっと触れる。
「心配してくれるのか?しかし、心配はいらない。これくらい日常茶飯事だからな」
そう言うと、ライアンは血が止まる気配がない右腕を抱えるようにして部屋を出て行った。
ミケは声を掛けたいのに掛けられない自分が悔しかった。
『殴ってしまってごめんなさい』
『ライアンは怖くないです』
『離れて行かないでください』
『右腕の傷を処置しに行きましょう』
ライアンは自らを犠牲にして自分を助けてくれた。
普通なら本能のままに襲うのに、意識を保つためにあんな怪我をさせてしまった。
何もできない不甲斐なさにがっかりした。
朝部屋から出て行ったっきりライアンは本当に部屋に帰って来なくなった。
寮母さんに尋ねると、空き部屋があるので、そこに一時的に移動していると教えてくれた。
ライアンは今朝『発情期が来ている』と言っていた。
本当は今会いに行きたい。
いろんなことを話したい。
だけど、今会いに行くと今朝のようにライアンに迷惑をかけてしまうかもしれない。
発情期はいつも一週間程度続く。
(一週間後にまた会いに行こう)
来週の今日ライアンの部屋に訪れることにした。
一週間が経った。
発情期中の授業への参加は出席停止扱いされるので連絡さえ入れれば登校しなくていい。
遅れた授業に関しても、授業は全て録画されているので、それを見て勉強する。
次の定期テストまで時間がない。
毎日放課後から完全下校時間までの数時間と土日を使って遅れている分の授業を受けた。
おかげで、ライアンに会いに行くタイミングを逃した。
会いに行きたいけど、自分がここに来たのは勉強をしに来た。
勉強を疎かにしては受験料を出してくれた古本屋の主人に申し訳が立たない。
今やるべきことに専念した結果、ライアンに会いに行く機会を作れたのは、発情期に入って二週間が経過していた。
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