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第9話
ようやくライアンに会いに行ける時が来た。
ライアンが移動した部屋に向かう。
ライアンは部活に所属はしていない。
各部から助っ人を頼まれた時だけ参加している。
だから、今日は部屋にいるはずだった。
ドアをノックすると、「はい」と中からライアンの声がした。
久々に聞くライアンの声。
胸がドキドキした。
そっとドアを開けると、先程まで々教室の隣の席にいたライアンがそこにいた。
右腕にはあの時の怪我が完治しておらず、まだ白い包帯が巻かれたままだ。
痛々しさが残る右腕からそっと目を逸らした。
声は相変わらず出せないので、筆談をする。
「どうした?何か用か?」
『もう発情期終わりました。部屋に戻ってきてください』
「それはできない。またいつミケを襲うか分からない。同じ部屋にαとΩが一緒にいるのは危険だ」
『そうかもしれないけど、ライアンは他のαとは違います』
「いや、同じだ。貴殿を襲おうとしたことに変わりない」
『でも、途中で止めてくれました』
「止めるまでは自我を保っていられなかった」
『他のαは最後までしました。自我を忘れて…。でもライアン、あなたは自我を取り戻した。それは他のαとは違う所です』
「それでも、一緒にいるわけにはいかない。ミケを危険に晒すわけにはいかない」
どうやっても戻ってきてくれないライアン。
なぜかライアンに拒否されると胸が苦しくてたまらなかった。
どうしてなのか分からない。
だけど、『一緒にいられない』と言われ、ひどくショックだった。
目から大粒の涙がボロボロと零れた。
泣いたら余計にライアンの迷惑になって、より一層戻ってきてくれなくなるかもしれないのに、涙を止めることができなかった。
案の定、ライアンはミケの涙を見てオロオロとしている。
大きい体を屈ませて、ミケの顔を覗き込んでくる。
「ミケ、泣き止んでくれ。貴殿を怖い目に合わせないようにするためにも一緒にいない方がお互いのためなんだ」
ミケは一歩踏み込んで、ライアンの懐に飛び込んだ。
(今言葉を出さないと絶対後悔する)
「ぅ…ぃ…」
「ミケ?」
「す…ぃ…」
「ん?」
「す…きぃ…」
ライアンに拒否された時の胸の苦しさはライアンのことが好きだったから。
自分のこの思いを受け入れてもらえるとは思っていないけど、言わなければならないと思った。
そう思うと、声が出た。
『好き』と。
ライアンは突然の告白に戸惑って固まってしまった。
(困らせてしまった…)
ライアンから離れて筆談用のメモを拾い上げ、言いたいことを書き上げ、ライアンに渡す。
『突然ごめんなさい。でも、今のが僕の気持ちです。部屋に戻ります』
ペコリと頭を下げ、ドアノブに手をかけた時、後ろからライアンに抱きしめられていた。
「行かないでくれ」
驚いて今度はミケが固まる番になった。
ライアンは先程渡したメモをミケの手に返し、続けた。
「本当にミケと同じ部屋で構わないのか?」
『一人でいるには広すぎるし、寂しいです。早く戻って来てください』
「また襲うかもしれないぞ?」
『そうしたら、また殴ります』
どちらかともなく笑い合った。
今までの隔たりがなかったかのように。
その日を境にミケは少しずつしゃべれるようになった。
元のようにしゃべるにはかなりの時間を要したが、以前よりおしゃべりなミケに戻っていた。
よく笑い、よく話すミケ。
以前と一つだけ違ったのは、いつもとなりにライアンがいるということ。
ある日の夕方、寮へ戻っている時だった。
ライアンが思い出したように話しかけてきた。
「あの時の返事をするのを忘れていた」
「あの時?」
「ミケが自分に告白してくれた時だ」
「あぁ…もう忘れてください」
「忘れることはできない。自分もミケが好きだからな」
「本当に?冗談とかだったら起こりますよ?」
「笑えない冗談は好きじゃない。本当にミケが好きだ」
「本当ですね?」
「本当だ。命を懸けてもいい」
「嬉しいですっ!」
ミケはライアンの首に腕を回して飛びついた。
難なく抱きとめるライアン。
二人は見つめ合い、静かに唇を重ねた。
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