11 / 14
第11話
日曜の朝、ミケの顔色は最悪だった。
真っ青だった。
それだけ病院というものが苦手なのだろう。
『行きたくない』と顔に書いているが、病院に予約を入れているので行かないわけにはいかない。
逃走を計るもライアンに見つかり、しっかり手を握られてしまった。
これで逃走することはできない。
ミケは諦めて、学校のからの紹介状を片手に病院に向かった。
病院に到着し、受付で紹介状と予約表を渡す。
受付の人に言われた所に行くと、担当の看護師が待機していた。
「ミケさんですね」
「はい」
「こちらへどうぞ」
今日の検査は採血のみ。
看護師の許可を得て、ライアンも一緒に付き添う。
ベッドに横になり、体中に力を入れるミケ。
「ミケ、それでは痛いだけだ」
「だって、怖いんですよ」
「それなら、自分の手を握っていればいい」
採血する腕と逆の手をライアンが握ってくれた。
それだけでミケの全身に入っていた力が抜けた。
(ライアンだけ見ていれば怖くない)
終始ライアンだけ見ていると、いつの間に採血されたのか分からないうちに終わっていた。
結果が出るまで待合所のソファで待機するよう言われ、検査室を出る。
時間はちょうどお昼。
すぐ結果が出るわけでもないので、購買に行き、軽食と飲み物を買って待合所で待機することにした。
検査結果が出たのは、採血してから二時間後だった。
「ミケさんお入りください」
どうしても一人で結果を聞く勇気がなかったので、ライアンにも付き添ってもらう。
中に入ると担当医がいた。
二人で並んで丸椅子に座る。
「ミケさんですね?」
「はい」
「お友達の方は席を外してもらった方がいいと思います」
「いえ、同席させてください」
「ご本人がそれでよろしいなら構いませんが…結果からいいますと、番を持つと命を落とします」
「…どういうことですか?」
担当医が言うには、番った時に脳から放出されるホルモンに対して体が耐えられないということらしい。
最近分かった症状で、ミケの他にもいるとのこと。
研究のまだ始まったばかりで、明確な治療法もない。
唯一の解決法が番を持たないこと。
しかし、それはΩにとって、辛い告知であった。
Ωが番を持てない。
愛する人と一緒になれないということ。
ミケはあまりのショックで気を失った。
気が付くと、真っ白な天井が広がっていた。
「ミケ、気が付いたか?」
声がする方を見ると、ライアンが心配そうにミケを見つめていた。
「すみません。確か結果を聞いていたはず…」
「その途中で倒れたのだ」
「あぁ…失態ですね…」
「無理もない」
「ライアンも聞いたんですよね」
「あぁ…」
「僕たち別れた方がいいのかもしれませんね」
「どうしてそう思う?」
「だって、僕と一緒にいても、番えないなら一緒にいる意味ないでしょう?」
「ミケにとって一緒にいるためには、番わなければならないのか?」
「愛し合うなら番いたいと思うのが当然です」
愛する者と番い、愛する者との子供を産む。
それがΩの幸せだとミケは思ってきた。
それができないなら、ライアンを自分から解放して、番となるΩの元へ送り出してやるのが今の自分にできる唯一の恩返しだと思った。
いつもライアンには迷惑ばかりかけてきた。
今回も倒れて心配をかけてしまった。
その上、番うと死んでしまう恋人というのは重すぎる。
ライアンを自由にしてやるのが一番だ。
「確かに愛し合うなら番いたいと思うのは必然だ。しかし、自分はミケ以外と共にいるつもりはない」
せっかく自由にしてあげよう。
幸せになる道を歩ませてあげよう。
そうしているのに、なぜライアンは拒否するのか。
なぜ幸せになる道を閉ざすのか。
ミケには分からなかった。
「自分にとって、最愛で運命の相手はミケだと思っている。もし、都市伝説の運命の番という者が現れたとしても、自分はミケの元から離れる気はない。俺が愛しているのはミケだけだ」
いつもライアンは一人称は『自分』で、いつも客観的に物事を見て言葉にする。
そのライアンが自分のことを『俺』と言い、主観的な物事を口にした。
ライアンの本気を垣間見た。
(せっかく僕が自由にしてあげようって、幸せになってって手放してあげようと思ったのにな…)
「そんなこと言われたら、もう離してなんかあげませんよ?死ぬまで一緒ですよ?いいんですか?」
「元よりそのつもりだ。死ぬまで添い遂げる」
ライアンの愛の深さを知り、もう自分から手放すことは止めようと思ったのだった。
この日は寮に戻り、翌日の朝、診断結果を養護教諭に渡し、詳細を話した。
それから、ミケの発情期中は何人たりとも部屋に近づくことを禁ずる通告が全生徒・全職員に通達された。
ともだちにシェアしよう!