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第29話
マットから立ち上がろうとすると、足に力が入らず、そのままマットに雪崩れ込んでしまった。
「奏、大丈夫?」
「…、秋臣のせいだからな」
「うん、ごめん。おぶって帰ろうか?」
「…、絶対いや」
「じゃあ…」
「…、もう少し、ここで休んだら歩けるかも」
「分かった。ちょっとゆっくりしようか?」
そう言うと、柊木くんは僕を後ろから抱き上げ、綺麗なマットの上に座った。
もちろん、僕を後ろから抱きかかえた状態で。
「あ、あの、普通に座れるんだけど…」
「んー?」
抗議してみるも、柊木くんは取り合ってくれない。
っていうか、頭の匂い嗅がれてるし…
「さっき汗かいたから、匂い嗅がないで」
「なんで?奏はいつもいい匂いがするよ?」
「やだってば!変態」
「はいはい」
何とか逃れようとするけど、ガッチリホールドされているし、何より、下肢に力が入らない。
「…、もう。あ…、僕のネクタイ、涙でグショグショになっちゃってる…」
「じゃあ、俺がそっちのネクタイもらう。奏はこっち」
僕の手首を固定していたネクタイを渡され、柊木は嬉々としてびちょびちょのネクタイを取り上げた。
「え、なんかやだ。僕が汚したんだし、僕が持ち帰るよ」
「全然気にしないで」
「…、そこまで言うなら、まあいいけど」
何で柊木くんはわざわざ汚いほうのネクタイを持っていったんだろう…
「あっ!汚いといえば、マット…、どうしよう…」
「ああ、それなら俺の私物だから放っといていいよ」
「そっか…、って、私物!?」
「うん。まあ、そのうち片付けておく」
「そ、そう」
なんかよく分からないけど、処理を全部任せてしまって申し訳ない。
まあ、おしおきとか言い出したのは柊木くんだから、僕の知ったこっちゃない。
その後、後ろから抱きしめてくる柊木くんに、好き放題させておいて、僕は転寝をしたりして、回復を待った。
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