38 / 74

第38話

「ひ、柊木くん、怒ってる?」 「柊木くん?」 「あ…、えっと、秋臣くん」 「怒ってないように見える?」 「見えないです」 そこからまた沈黙になる。 正直、クラスの皆の前でお姫様抱っことか、僕のほうが怒りたいくらいなのに…、怒った柊木くん、怖すぎて無理。 「あの、僕、重くない?歩けるよ?」 「ちょっと、黙っててくれない?」 「あ、ごめん…」 いつもは話しかけると、ちゃんと応えてくれるのに…、なんかすっごく冷たい。 僕、何かしたっけ? 秋臣の顔を見上げても、冷たい表情で前を見たままだ。 ジワジワと視界がぼやけ始める。 絶対、この距離で見上げたら、僕の視線に気づくはずなのに、明らかに無視されてる。 ボロッと目の淵から涙がこぼれた。 こんなことで泣くなんて… なんだか情けなくなってきて、さらに涙が溢れてくる。 「うっ…、うぅ…」 「…、奏?泣いてるの?」 「泣いてないっ」 「嘘つき」 「だってっ、秋臣が…、秋臣がっ、つ゛め゛た゛い゛ぃ…」 「分かったから、泣かないで」 以前と同じ空き教室に入り、何故かこないだよりもグレードアップしたマットの上に降ろされる。 秋臣は僕が落ち着くまで、背中をトントンしてくれた。 「落ちついた?」 落ち着いたけど、泣いた顔を見られたくないから、秋臣の胸に顔を埋めたまま頷いた。 「奏、顔見せて」 「やだ」 「可愛い」 「うるせぇ…」 悪態をつきつつも、いつも通りの秋臣に戻ってホッとする。 なんとなく、離れがたくて、いつもよりも強めにしがみつく。 「今日の奏は一段と可愛いね。服のせいかな?」 「服…、あっ!着替えないと」 慌てて顔を上げた。 っていうか、僕の鼻水とかで汚れてないかな? 「ふふ、やっと顔上げた」 「うわっ、見るなよ」 「どうせなら、勿体無いから、このまま愉しもうか」 「愉しむって…、まさか」 そのまま秋臣に押し倒された。

ともだちにシェアしよう!