44 / 74
第44話
体育館に行くまで通った廊下は、見慣れたものとは違い、騒々しく飾り立てられていた。
ほかにも、手の込んだポスターなんかも貼ってあって、どこか浮き足だっている。
そんな僕も、結構、わくわくしていたりする。
男女装コンテストは別として。
体育館のステージには、実行委員メンバーを中心に10人以上の人が集まっていた。
「なんか、沢山いるね」
「ん?ああ、今から開祭式・閉祭式のリハするから、関係者に集まってもらってる。コンテストは例年通り、開祭式でするよ」
「そう…、なんだ」
「はは、既に、緊張で死にそうって顔してる」
「当たり前だろ!全校生徒の前で女装を披露する身にもなれ」
「あー…、俺、そういうの得意だから。緊張とかしたことないし、司会は俺だし」
「…、くっそ、得意分野だからって調子乗るなよ…」
「あ、蒲田ー!代役ってその子?」
「そうだよ」
「ふーん…、なんか見ない顔だな…、一年生?」
「…、同級生だぜ?」
「えっ、ごめん」
「いえ、ダイジョブです」
いや、分かってますよ。僕、影薄いですもんね。なんかスイマセン。
「じゃあ、全員揃ったし、通しでリハします。ステージ明転、オープニングフェードインから」
盛大な音楽とともに、司会役が出てくる。
台本どおりなんだろうけど、蒲田の司会の能力の高さには驚かされた。
「はい、ここまでオッケー。みよちゃんは、ちゃんと台本暗記してきてね」
「すみません…」
「次、男女装コンテスト入ります。エントリーNo.、クラス、名前を呼ぶので、音楽が流れ始めたら出てきて。ここ、会場暗転で、一人ずつスポット当てまーす。じゃあ、参加者は体育館の入り口に行って」
3年生のなんか偉そうな人の指示でぞろぞろと入り口に移動する。
集まった人たちは、女子は僕より少し大きいし、男子は僕と同じくらいか、ちょっと小さいくらい。
すごい…、なんか背の低い男子に親近感が沸く。
っていうか、蒲田や秋臣が大きすぎるんだと思う。
なんで、僕の数少ない友達は、どっちも大きいんだよ。
ふと、前を歩いていた男子生徒が振り返った。
うわぁ、なんかすごく美人な子だな…
全く勝てる気しないんだけど…
と、思ったら思いっきり睨まれた。
僕より小さいけど、美人の怒った顔って、すごい迫力…
って、え!?
なんで睨まれてるの?
「あ、えと、よ、よろしく?」
やっと声を振り絞ったが、その子はまた、プイッと前を向いてしまった。
僕、なんかしたっけ?
靴や校章のバッジを見る限り、1年生みたいだけど…
ボーっとしていると、肩を叩かれた。
「えっ、は、はいっ」
「ねぇ、名前呼ばれたよ?君の番じゃないの?」
男前な女の子に声を掛けられてハッとする。
やばい、僕の入場の番だ。
「あ、ありがとうございます」
軽くお礼を言い、早歩きでステージを目指す。
危なかった…
これが本番だったらと思うと、背筋が冷たくなる。
全校生徒に女装を晒した挙句、恥まで晒してしまったら、もう学校に来られなくなる。
ちゃんとリハーサルに集中しよう。
ともだちにシェアしよう!