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第44話

体育館に行くまで通った廊下は、見慣れたものとは違い、騒々しく飾り立てられていた。 ほかにも、手の込んだポスターなんかも貼ってあって、どこか浮き足だっている。 そんな僕も、結構、わくわくしていたりする。 男女装コンテストは別として。 体育館のステージには、実行委員メンバーを中心に10人以上の人が集まっていた。 「なんか、沢山いるね」 「ん?ああ、今から開祭式・閉祭式のリハするから、関係者に集まってもらってる。コンテストは例年通り、開祭式でするよ」 「そう…、なんだ」 「はは、既に、緊張で死にそうって顔してる」 「当たり前だろ!全校生徒の前で女装を披露する身にもなれ」 「あー…、俺、そういうの得意だから。緊張とかしたことないし、司会は俺だし」 「…、くっそ、得意分野だからって調子乗るなよ…」 「あ、蒲田ー!代役ってその子?」 「そうだよ」 「ふーん…、なんか見ない顔だな…、一年生?」 「…、同級生だぜ?」 「えっ、ごめん」 「いえ、ダイジョブです」 いや、分かってますよ。僕、影薄いですもんね。なんかスイマセン。 「じゃあ、全員揃ったし、通しでリハします。ステージ明転、オープニングフェードインから」 盛大な音楽とともに、司会役が出てくる。 台本どおりなんだろうけど、蒲田の司会の能力の高さには驚かされた。 「はい、ここまでオッケー。みよちゃんは、ちゃんと台本暗記してきてね」 「すみません…」 「次、男女装コンテスト入ります。エントリーNo.、クラス、名前を呼ぶので、音楽が流れ始めたら出てきて。ここ、会場暗転で、一人ずつスポット当てまーす。じゃあ、参加者は体育館の入り口に行って」 3年生のなんか偉そうな人の指示でぞろぞろと入り口に移動する。 集まった人たちは、女子は僕より少し大きいし、男子は僕と同じくらいか、ちょっと小さいくらい。 すごい…、なんか背の低い男子に親近感が沸く。 っていうか、蒲田や秋臣が大きすぎるんだと思う。 なんで、僕の数少ない友達は、どっちも大きいんだよ。 ふと、前を歩いていた男子生徒が振り返った。 うわぁ、なんかすごく美人な子だな… 全く勝てる気しないんだけど… と、思ったら思いっきり睨まれた。 僕より小さいけど、美人の怒った顔って、すごい迫力… って、え!? なんで睨まれてるの? 「あ、えと、よ、よろしく?」 やっと声を振り絞ったが、その子はまた、プイッと前を向いてしまった。 僕、なんかしたっけ? 靴や校章のバッジを見る限り、1年生みたいだけど… ボーっとしていると、肩を叩かれた。 「えっ、は、はいっ」 「ねぇ、名前呼ばれたよ?君の番じゃないの?」 男前な女の子に声を掛けられてハッとする。 やばい、僕の入場の番だ。 「あ、ありがとうございます」 軽くお礼を言い、早歩きでステージを目指す。 危なかった… これが本番だったらと思うと、背筋が冷たくなる。 全校生徒に女装を晒した挙句、恥まで晒してしまったら、もう学校に来られなくなる。 ちゃんとリハーサルに集中しよう。

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