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第46話
文化祭当日、緊張で死にそうな僕は、ノロノロと教室に入る。
「おはよう、奏」
「あ?ああ、おはよ」
「昨日、ぜんぜん姿が見えなかったけど、どこにいたの?」
「昨日?…あ、蒲田と…、いや、何でもない」
「蒲田と?何してたの?」
「いや、本当になんでもないから」
男女装コンテストに出る、なんて死んでも言いたくない。
元々、影が薄いし、女装すればバレないかもしれない。
だから、公言したくない。
「へえ?俺に言えないようなこと、してたんだ?」
秋臣がめちゃくちゃ怒ってる…
今までにないくらい。
普段の僕だったら、即、謝って、理由もベラベラ言っちゃうと思う。
でも、秋臣の方こそ、やましい事してるじゃないか…
さすがに、僕もカチンときた。
「…、お前のほうこそ、1年生くんとよろしくやってたくせに…」
「は?」
「僕との時間は取れない癖にっ…」
「え?あの、かな…」
「奏~!おっせーぞ!コンテスト出るやつは早めに来いって言ったじゃーん」
「あ、ごめん、蒲田」
「え、ちょっ…」
もう、蒲田、声でかい…
でも、助かった。
「コンテストって…、何…?」
教室では、秋臣が2人が走り去った方向を呆然と眺めていた。
__________
「梁瀬と柊木、またギスギスしてんの?」
「いや…、別に、そういうわけでは…」
「控え室」と、でかく書かれた紙が貼られた体育館の用具室で、メイク中だ。
「やっぱ俺のせい?」
「全然。蒲田は関係ないよ?」
「ほんと?なんかさ、柊木って、俺と梁瀬が仲良くすると怒るじゃん」
「そうなの?」
「え、多分」
「あー…、だからか…」
「ごめん、リップ塗るからしゃべんないで」
「あ、すみません」
唇の上を、筆が2~3往復する。
人に顔を触られてるってなんか変な感じ。
「はい、できた。髪は?ウィッグだったら私、整えとくよ?」
「え?マジ?助かる~」
そして、蒲田が出した毛の塊みたいなものを頭にのせられた。
「ねえ、これ、前髪切ってもいい?」
「え?いいけど」
「梁瀬くん、目が大きいから目より上で整えたほうが似合うと思う」
「そうか。いや、もう好きにしていいよ」
「りょーかい」
地毛じゃないけど、素人に髪切ってもらうのってなんか怖い。
しかも、文具のはさみだし。
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