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第52話

嗚咽が落ち着いて、周りを見渡すと、秋臣はいなかった。 なんだよ、少しは慰めろよ。 って、二度と面見せるなって言ったのは僕だった。 なんであんなこと言っちゃったんだろ… 素直に、「芦田くんじゃなくて、僕を見て」って言えていたら、もうちょっと違う未来だったのかも。 でも、許すつもりもない。 頬の液体を拭うと、手が真っ黒になった。 え!?な、なんで黒いの!? 慌ててトイレに向かい、鏡を見る。 「うわ~…」 そういえば僕、化粧してたんだった… 多分、目に塗ったやつが溶けちゃったんだ。 なんか目の回り真っ黒で、パンダみたい。 これじゃあ、教室に戻れないよ… どうしよう。 僕は途方に暮れて、蒲田に電話した。 「おい!おまっ、今どこ!?」 「え、なんでそんなに慌ててるの?」 「慌てるだろ!柊木に連れ去られたと思いきや、1時間以上戻ってこないし…、早くクラスの手伝いしろ!混んでんだよ!」 「あ、ご、ごめん、忘れてた…」 「おまえなぁ…」 「それで…、実は化粧が落ちちゃって、人前に出られない顔になっちゃった」 「はあ!?」 「だからね、直して欲しいっていうか…、いや、落とすだけで良いんだけど」 「…、わかった。さっきの子と一緒に行くから。で、どこにいるの?」 「東校舎の2階…」 「今からいくから動くなよ?」 「うん。ごめん、蒲田」 「梁瀬、柊木となんかあった?」 「ううん。蒲田が心配するようなことはないよ」 「…、うん。すぐ行くから待ってろよ」 切り際、電話の向こうで「あやちゃーーーん」と叫ぶ蒲田の声が聞こえた。 必死にあの女の子を探してくれているんだろう。 いいやつだな、あいつ。 そしてまた、鏡の中の自分を見る。 鼻の辺りが、化粧をしていても分かるぐらい赤くなっている。 目も充血してるし、最悪だ。 今日の芦田くん、やっぱり可愛かったな。 ぜんぜん、足元にも及ばなかった。 男同士でこんな言い方、合ってるか分からないけど、秋臣に釣り合っているのは間違いなく芦田くんだ。

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