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第53話
▼柊木 秋臣 視点
狂ったように泣きじゃくる奏を見て、俺はとんでもない事をしたと、悟った。
どうしようもないクズだ…
奏を傷つけてしまった…
何かしなきゃ、と思うのに、いざ、奏に触れようとすると、また傷つけそうで怖い。
そうだ、何か飲み物と冷たいタオルでも持ってこよう。
そう思って、教室を出る。
今思えば、このとき、奏に一言かけて出て行けばよかった。
汗をかきながら走って戻ると、そこに奏はいなかった。
文化祭というものは、なかなか人が集まるもので、自動販売機にたどり着くのも、保健室でタオルを借りるために保健医を探すのも、いつもの何倍も時間を要した。
何もかもが、自分を阻んでいるようで腹が立った。
奏は、仕切りに「アシダ」という名前を口にしていたけど…、アシダって誰だろう。
そんなことよりも、早く奏を見つけないと…
飲み物とタオルを教室の机におき、俺は走り出した。
校内を隈なく探していると、家庭科室から声が聞こえ、覗いてみる。
そこには、目を腫らした奏と、蒲田、派手な女の子がいた。
また、奏は蒲田を頼っている。
悪いのは俺だし、奏は友達が少ないから仕方ないんだけど…
腹が立つのは仕方がない。
家庭科室のドアを開けると、3人が一斉にこちらを向いた。
怯えた顔した奏と目が合う。
「奏…、ごめん…」
俺が謝ると、蒲田が困った顔をして俺と奏の間に立った。
「悪い、柊木…、梁瀬、化粧崩れちゃって、見られたくないんだって。今直してるから待っててくれない?」
「…、分かった」
正直、奏は化粧が崩れていようと可愛さに変わりはない。
でも、散々好き勝手したから、奏の要望はきこう。
「あんた、柊木だっけ?」
「そうだけど?」
「…、なんか噂で聞いた、完璧なイケメンとは程遠いんだけど」
「ああ、柊木は梁瀬のこととなると、かなりポンコツだから」
「ふーん…、好きなんだ?」
「そうだけど?」
「「ブフッ」」
蒲田と奏が噎せている。
「えっ、ええ!?お前らってそういう関係なの!?」
「や、あっ、あのっ…」
「逆に何で気づかないの、蒲田」
「あやちゃんすげぇな」
「も、もう!いいでしょ、僕とあき…、柊木くんの話は!」
「うんうん、分かったから。動かないで、アイラインがぶれちゃう」
「あ、ごめんなさい」
奏はしゅんとして、大人しくされるがままにされていた。
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