54 / 74
第54話
「よしできた!」
派手な女の子が大きい声を上げる。
「おー!ほぼ完治してる」
「完治っていうな」
「だってさっきのは大事故じゃん?」
「…、顔面事故ってるって言いたいわけ?」
「ま、まさか~。梁瀬は可愛いよ」
「お前に言われても嬉しくない」
「ほら、蒲田、邪魔者は退散しよ?しかも、あんたらのクラス、3人もサボってて大丈夫なわけ?」
「あ、やべぇ!もう始まってるじゃん!って、めっちゃ電話来てるし…」
「やっべぇぇ!!!」と叫びながら、蒲田は家庭科室を出て行った。
「柊木、30分あげるから、早く教室来いよ?梁瀬もな」という捨て台詞も残して…
「じゃ、アタシも戻るわ」
「あ、あやちゃん、ありがとう」
「ん。次はないから、絶対崩さないでよ?柊木くんも、泣かしたら許さないからね」
「…、ごめん」
「じゃーねー」
派手な子が出て行くのを見送って、奏に声をかける。
「奏」
「な、なに!?」
可哀想なくらい肩を跳ねさせて、俺に顔を向ける。
「その…、本当にごめん…」
「無理やりのやつは許す気はない…、けど…、二度と面見せるなは撤回してやる」
「ありがとう」
「さっき、なんで僕のこと置いていったの?」
「それは…、水と冷えたタオルを持っていこうとして…」
「一声かけていけよ」
「それもごめん」
「…はぁ、めちゃくちゃ怒ってやろうと思ったのに、そんなにしょげられたら怒る気、失せるな」
「…、殴っていいよ」
「馬鹿言え、僕は暴力が嫌いだ」
「どうしたら…、また俺に今までどおりに接してくれる?何でもする」
「ばーーか」
俺が俯いていると、視界に奏のほっそりした足が入る。
奏が俺の正面に立っている。
殴るなり、蹴るなりしてくれ…
俺にとっては、ちょっと(いや、かなり)ご褒美みたいなところあるけど。
目を瞑っていると、思ったような衝撃はなく、ポンと、頭に手を置かれた。
その手が、左右に行ったり来たりしている。
「か、奏?」
「はは、叱られてる時のうちの犬にそっくり」
無邪気な様子に、むくむくと、俺の欲が高まる。
耐え切れず、奏に抱き着いた。
「わぁ!?あ、秋臣!?」
ただでさえ小柄な奏が、さらにぎゅっと縮こまる。
まだ、怯えてるんだ。
そう思うと、胸が苦しくなる。
「ごめん」
もう、何に対しての謝罪か分からない。
「いいよ、別に。びっくりするから、抱き着く前に言えよな」
事前に言ったら、良いんだ…
ともだちにシェアしよう!