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第54話

「よしできた!」 派手な女の子が大きい声を上げる。 「おー!ほぼ完治してる」 「完治っていうな」 「だってさっきのは大事故じゃん?」 「…、顔面事故ってるって言いたいわけ?」 「ま、まさか~。梁瀬は可愛いよ」 「お前に言われても嬉しくない」 「ほら、蒲田、邪魔者は退散しよ?しかも、あんたらのクラス、3人もサボってて大丈夫なわけ?」 「あ、やべぇ!もう始まってるじゃん!って、めっちゃ電話来てるし…」 「やっべぇぇ!!!」と叫びながら、蒲田は家庭科室を出て行った。 「柊木、30分あげるから、早く教室来いよ?梁瀬もな」という捨て台詞も残して… 「じゃ、アタシも戻るわ」 「あ、あやちゃん、ありがとう」 「ん。次はないから、絶対崩さないでよ?柊木くんも、泣かしたら許さないからね」 「…、ごめん」 「じゃーねー」 派手な子が出て行くのを見送って、奏に声をかける。 「奏」 「な、なに!?」 可哀想なくらい肩を跳ねさせて、俺に顔を向ける。 「その…、本当にごめん…」 「無理やりのやつは許す気はない…、けど…、二度と面見せるなは撤回してやる」 「ありがとう」 「さっき、なんで僕のこと置いていったの?」 「それは…、水と冷えたタオルを持っていこうとして…」 「一声かけていけよ」 「それもごめん」 「…はぁ、めちゃくちゃ怒ってやろうと思ったのに、そんなにしょげられたら怒る気、失せるな」 「…、殴っていいよ」 「馬鹿言え、僕は暴力が嫌いだ」 「どうしたら…、また俺に今までどおりに接してくれる?何でもする」 「ばーーか」 俺が俯いていると、視界に奏のほっそりした足が入る。 奏が俺の正面に立っている。 殴るなり、蹴るなりしてくれ… 俺にとっては、ちょっと(いや、かなり)ご褒美みたいなところあるけど。 目を瞑っていると、思ったような衝撃はなく、ポンと、頭に手を置かれた。 その手が、左右に行ったり来たりしている。 「か、奏?」 「はは、叱られてる時のうちの犬にそっくり」 無邪気な様子に、むくむくと、俺の欲が高まる。 耐え切れず、奏に抱き着いた。 「わぁ!?あ、秋臣!?」 ただでさえ小柄な奏が、さらにぎゅっと縮こまる。 まだ、怯えてるんだ。 そう思うと、胸が苦しくなる。 「ごめん」 もう、何に対しての謝罪か分からない。 「いいよ、別に。びっくりするから、抱き着く前に言えよな」 事前に言ったら、良いんだ…

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