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第55話
しばらく抱き着いていると、そろそろと奏の手が背中に回った。
ちょっとは警戒心、薄れたかな?
「今度するときは、優しくしてくれ」
「え?」
「きっ、聞き返すな!もう言わねぇ!」
「奏…」
「な、なに?」
「好き」
「あ、改めて言うなよっ」
「可愛い…」
「うわああ、キモいって」
思わず、奏に頬ずりする。
「やめろって、ウィッグがずれる」
「わかった…」
「そろそろ30分経つし、僕たちも教室に戻ろう?」
「もう?」
「これ以上、クラスに迷惑かけられねぇよ」
「うん。あのさ…」
「あ?」
「文化祭、終わったらお詫びさせて欲しい」
「お詫び?」
「うん。これまでのお詫び。あと、お互い、説明しなきゃいけないこともあるから」
「それはいいけどさ…、普通にデートじゃダメなの?」
「え…、奏は、こんな俺とデートしてくれるの?」
「まあ、僕も無駄に張り合って、秋臣にケンカ売ったりしたから…、あいこにしてやる」
「かっ…、奏…」
目頭が熱くなり、ぶわっと視界が歪む。
「わっ、な、泣くなよっ!さすがにお前は化粧じゃ隠せないぞ?」
あわあわ言いながら、奏が俺の目に服の袖を当てる。
「よし、じゃあ、教室行こうぜ」
「そうだね」
家庭科室を出て、1階に降りると、さっきよりも人でごった返していた。
「すげぇー!学校にこんなに人がいるの、すげーな」
「奏…、女装してるんだから、もう少し言葉遣いを…」
「あっ、ご、ごめん」
「俺は気にしないけど」
教室に入るや否や、文化祭に情熱を傾けている人々()にとても怒られた。
奏なんか、半泣きで着替えさせられてたし。
1日目は、奏と文化祭を回る、なんてことを考えるのはよして、ちゃんと名誉挽回しよう。
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