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第58話

「とにかく、売上は俺と蒲田で十分だし、うちのクラスの女子だって上手いことやってるし、奏は頑張らなくていい」 「なっ…、そりゃ、僕はポンコツだけど…、僕だって頑張りたい」 「気持ちは分かるけど、ダメ」 「なんで!?」 「奏が…、他の奴からそういう対象で見られてるって考えただけで無理。俺が正気じゃいられない…」 「なななっ、は、恥ずかしいこと言ってんじゃねぇぞ」 「今すぐ女装を辞めるか、完全に裏方に徹するか、どっちかにして」 「わ、分かった。裏方に徹する。じゃあ、僕、生クリーム取って来なきゃいけないから」 「うん。気をつけてね。あと、連れて行かれそうになったら、俺に電話して」 「お、おう。あと…」 「?」 「た、助けてくれてありがと」 それだけ言い捨てると、僕は恥ずかしさから、その場を逃げるように走り去った。 ここで、ニコニコしながらちゃんとお礼を言えれば可愛げがあったんだろうけど、やっぱり、素直になるってとても難しい。 後ろでは、秋臣が蹲って悶えているのを、通行人が気持ち悪そうに避けていた。 「失礼しまーす」 職員室のドアをノックし、入ると、2~3人の先生が仕事をしていた。 「生クリームを取りに来たんですけど、冷蔵庫、開けてもいいですか?」 「どうぞ~って、えっ!?梁瀬くん?」 「そ、そうです」 「へ~、化けるもんだね~」 「隣のクラスのあやちゃん?がしてくれたんです」 「ああ、沙絢だね」 「さあやちゃん」 「そう。あの子、派手だから先生も覚えちゃったよ~」 「そうですか」 「うん。だから、梁瀬くんと仲が良いって知ってビックリ」 「いや、仲が良い訳では…。蒲田つながりです」 「ああ、蒲田くんね。それなら納得だな。生クリーム、あった?」 「あ、ありました。大丈夫です」 「そう。どう?順調?」 「へ?」 「いや、模擬店。盛り上がってる?」 「あ、はい。蒲田と秋…、柊木くんのおかげで」 「そっか~、先生も早く仕事終わらせて回らなきゃ」 「そうですよ。担任なんですから、ちゃんと見にきてください」 「可愛い子にそう言われちゃうと行くしかないな~」 「…(変態親父みたい)」 僕らの担任は30代女性なんだけど、可愛い子に目がない。 今日だけは僕も気をつけておこう。 そして僕は、生クリームを無事に手に入れ、長すぎるお使いを終えた。 ちなみに、遅すぎると怒られた。

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