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第61話
明日こそ、ちゃんと秋臣に話をしなきゃ。
変わらなきゃ。
そう思えば思うほど睡魔は遠ざかっていって、僕はうまく眠ることができなかった。
それでも文化祭2日目の朝はやってきた。
クマがひどい。
のろのろと通学路を歩く。
周りを歩く、うちの生徒と思われる子達は楽しそうで…、ちょっと恨めしい。
秋臣たちの文化祭の出し物の練習が始まってから、一緒に登校することも無くなった。
っていうか、今日発表だったっけ…、見に行けたらいいな。
遅刻ギリギリの時間に教室に入ると、ちょうど練習が終わった秋臣と蒲田が教室に戻ってきた。
「おっすー、梁瀬。お前、顔すげぇぞ」
「うるさい。眠れなかったんだもん」
「文化祭が楽しみすぎて?」
「そんなガキみたいな理由じゃない」
「はは。で、どうする?今日も化粧する?」
「…え?し、しなくていい!僕、今日は調理したい」
「えー、つまんねー」
「向いてないってことに改めて気付いた」
あと、もうこれ以上、秋臣を怒らせたくないっていう…、ね。
「あっちぃぃい、俺、ジュース買ってくる」
「あ、僕、コーラね」
「…、しょうがないなぁ」
なんだかんだで蒲田は優しい。
蒲田が自動販売機に向かうと、僕と秋臣が残された。
「あのっ…」
「何?」
うっ…、やっぱ、まだ怒ってるのかな…
いつもよりそっけない。
「今日の夕方、一緒に遊ぶ約束、覚えてる?」
「…」
「えっと…、今日、やっぱ忙しい?」
「予定は無いけど」
「じゃ、じゃあさっ」
「蒲田誘うの?」
「え…、秋臣がいいなら別に…」
本当は2人がいいんだけど…、って、こういうのをちゃんと伝えろって昨日言われたんだった。
「いや、やっぱ嫌だ。2人がいい…、あ、秋臣がよければ、だけど」
「いいよ」
「ほんと!?約束だからな!忘れないでね」
念のため、指きりをしようと思ったけど、蒲田が戻ってきたから、そっと小指を仕舞った。
また子ども扱いされると嫌だし…
「はい、オレンジジュース」
「コーラだっつってんだろ!?」
「だめだよ、コーラは骨が溶けちゃう」
「お母さんかよ。クソ…」
頭から葉っぱを生やしたオレンジの顔と目が合う。
本当だったら買いなおしさせるけど、今回は蒲田のアドバイスのおかげで、なんとかなったし、飲んでやるか。
舌に残る甘ったるさが、睡眠不足の脳に染み渡る気がした。
オレンジジュースも悪くない。
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