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第62話

一般公開が始まってすぐはなかなか忙しかったけれど、それも段々と落ち着いてきた。 「今日は体育館でイベントあるから、イベント中はあんまり人来ないかも」 「あの、僕、13時から10分間休憩欲しいんだけど…」 「いや、混まなさそうだし、12時半から13時半まで休みなよ」 「え、いいの?」 「いいよー。今日は交代制で全員1時間休憩しちゃおう」 リーダーからの許しも得たし、秋臣と蒲田の勇姿をちゃんと見てこよう。 でも、1時間も時間もらっても…、1人で回るのはちょっと寂しいな… 「梁瀬くん、腕上がってるね」 「え、ほんと?」 「うん。昨日とは大違いだよ~」 「あ、ありがと…」 普段はあまり喋らない子とも話せるようになってきた。 文化祭マジックすごい。 「っていうか、梁瀬くんって笑うと結構かわいいよね」 「確かに。女装コン出るって聞いたときは、『あの無愛想な梁瀬くんが!?』って思っちゃったけど」 「えっと、僕、無愛想?」 「普段は結構、一匹狼感あるよね」 「っていうか…、ぼっち?」 「うっ…、否定できない」 「でもさ、蒲田くんとか柊木くんと仲良いよね」 「うんうん。その時の梁瀬くん、すごく面白いから話してみたかったんだ~」 「え、えっと…、僕、そんな価値ある人間じゃないけど」 「でもでも~、話してみると、話す前よりもぜんぜん印象良いよね」 「わかる~。第一印象で損してるよ!」 「あ、ありがと?」 「え~、可愛い~」 「やっぱ、ニコニコしてたほうが良いって」 「なるほど…、明日から頑張ってみる」 やっぱり、僕が友達少ないのって、僕に原因があったんだな… クラス全員と仲良く、なんてことは言えないけれど、友達が多いのは良いこと…、のはず! 実際、友達少なすぎて文化祭回るのも寂しいし… 明日から頑張ろう。 「あ、そろそろ12時半だね。じゃあ、12時半休憩の人、みんな休憩とって」 リーダーの声で2~3人の子がエプロンを外す。 僕も周りの人に合わせて、片づけをした。 休憩は有難いけど…、一緒に回ってくれる人がいない。 蒲田や秋臣は、練習でそれどころじゃないだろうし… そう思って、調理室でグズグズしていたら、秋臣が入り口から顔を覗かせた。 「奏、いる?」 「え、あっ、います!」 「…、なんで敬語なの?ま、いいや、休憩でしょ?」 「え、うん。なんで知ってるの?」 「調理のリーダーから聞いた。ほら、早く行こう」 おずおずと秋臣に近づいた僕の手を掴んで、秋臣は歩きはじめる。 「え!?あ、あの、練習は?」 「一通り終わった。練習のしすぎも本番で疲れちゃうから、ギリギリまで一緒に回ろう」 「う、うん」 ちょっと心配だけど、思ってもみない幸運だ。 存分に楽しもう。

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