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第66話
「ごめん、思ったよりも時間かかっちゃって…」
休憩スペースでレインボージュース()を飲んでいると、秋臣が走ってきた。
体育館でのイベントが一通り終わったせいか、今度は模擬店のほうが混み始めている。
「いいよ。っていうか、お疲れ。大盛況だったね」
「うん。練習した甲斐があった」
「秋臣は、売り子しなくても大丈夫なの?」
「蒲田に事情を話したら、俺の分も頑張ってくれるって。そういえば、奏は手伝わなくて大丈夫なの?」
「大丈夫。去年の展示は僕が頑張ったからって、今年は遊んで良いよって言われた」
「そう。それはよかった」
「あ、秋臣、なんか食う?」
「俺は何でも良いよ。奏が行きたい所に行こう」
「えー…、さっきも僕が決めたじゃん…、秋臣、本当にいいの?」
「もちろん」
「じゃあ、3組のパンケーキ」
「うん、行こうか。奏は本当に甘いものが好きだね」
「うん!あ…、秋臣は苦手じゃない?」
「苦手ではないよ。特段好きってわけでもないけど」
「そっか、ならよかった」
僕はウキウキで歩き出す。
そのウキウキは、長くは続かなかった。
パンケーキ屋は、主に女性客で大賑わいだった。
奇跡的に1テーブル空いていたのは…、芦田くんたちの隣だった。
死ぬほど気まずい。
だって…、芦田くん、僕のこと睨んでるし…
「あ、秋臣、食べたら早く出よう?」
「なんで?ゆっくりで良いでしょ?」
「…う、うん」
なんでこういうときは激ニブなの、この人…
隣の席とか、見えてないのかな…
パンケーキはびっくりするほど甘くて、個人的には美味しかった。
「奏、ごめん、ここで待ってて。俺、自販機でコーヒー買ってくる」
「え!?ま、待って、僕、すぐ食べるから」
「いや、いいよ。結構近いし、すぐ戻る。奏はゆっくり食べてて。奏もコーヒー飲む?」
「う、ううん。あの…、早く戻って来てね」
「ああ…、可愛い…」
全くもって、そういうつもりは無いんだけれど、とにかく、芦田くんの恐怖から一刻も早く逃れたい。
秋臣が席を立つと、ただでさえ進まなかった食が、よりいっそ減退した。
早く席を立ちたいのに…
パンケーキを睨んでいると、顔に影がかかった。
驚いてそちらに目を向けると、芦田くんが僕を見下ろしていた。
「ヒッ…」
フォークを持つ手がブルブル震える。
こんな可愛い男の子に見下ろされて怯えるの、僕くらいなのでは…
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