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第67話

「梁瀬…、先輩でしたっけ?」 「は、はい。なんでしょう?」 声が裏返る。 僕、なんで下級生に威圧されているんだろう。 「どうして、マナと秋臣先輩の邪魔するんですか?」 「邪魔って…」 僕からしたら、芦田くんの方が邪魔をしているように思えるけど… 「いつも独占してて、ずるいです」 「って言われても…、僕たち、付き合ってるし…」 「はああ!!?」 芦田くんの大きい声に、教室中にいた人がこちらを見る。 「ちょっと、声が大き…」 「どういうことですか!?マナたちっ、協定結んでるのに!抜け駆けしやがって」 「協定?って、うわぁ!?」 突然、襟首を掴まれて立たされる。 芦田くんって、見かけによらず暴力的なんだな… って、言ってる場合か!? な、殴られちゃうんじゃない? 怖い怖い怖い… 僕、生まれてこの方、喧嘩はおろか、襟首を掴まれたことも無いのにィ… 為す術も無く、口をパクパクさせていると、秋臣が帰ってきた。 「君…、奏を傷つけたら、誰であろうと許さないよ?」 いつも皆に向ける用の笑顔を湛えて、芦田くんに話しかける。 「秋臣先輩!だ、だってっ」 「どうでもいいから、早く奏を離してくれないかな?」 「っ…、クソっ」 芦田くんが忌々しげに呟いて手を離す。 僕は立っていることができず、そのまましゃがみこんだ。 「奏っ、大丈夫?」 「こ、怖かった…、っ、だから言っただろ!1人にするなって!バカ!!」 「ごめん。気付かなくて…。奏しか見えてなかったから…」 「き、キモいこと言うなよ」 「秋臣先輩、本当なんですか…?」 「何が?」 「梁瀬先輩と付き合ってるって話です」 「うん。本当だよ」 「なんで!?秋臣先輩はマナたちの憧れでっ」 「憧れ以前に、俺は1人の人間だよ?人を好きになるし、好きになった人とは付き合いたいって思う。普通でしょ?」 「でもっ…」 「文句があるなら、俺に言ってくれないかな?奏を攻撃するのは絶対違うよね?それと…、俺のほうが先に奏を好きになったんだ」 「そんな…」 芦田くんは今までに見たことが無いくらい、顔面蒼白になって、フラフラと教室を出て行った。 そりゃそうか… 今まで追いかけていた人が、自分よりも遥かに見劣りする人間を好きになったんだもん。 なんていうか…、芦田くんに幸あれ…

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