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二人でお茶会することになりました
ブードゥアニ伯爵邸はオレの住んでいるフランシス伯爵邸を南に少し下ったところにある。
領地の大きさも段違いだし、その分屋敷もデカい。屋敷というか、古城って感じ。
オレは一人馬車に揺られていた。
一人なので小声でドナドナを歌っている。
セシルも誘ったのだが、「私はご招待されていないのに行ったら失礼よ?お姉ちゃんの恋路を邪魔するつもりはないから安心して☆」といらん気づかいをされた。
うーん。
敵地に一人で行くの嫌だな。
オレの心情もむなしく、やがて馬車はコンフェラートの邸宅に着いた。
立派な門を抜け、庭を通って玄関前に到着する。
馬車の扉が開き、手が差し伸べられた。御者だろう。
女の子なら馬車を降りるときにエスコートされるのは当然なのだが、まだ慣れない。
二回目だからな。まだ。
「ありがとうございます」
お礼を言って手を貸してくれた相手の顔を見ると、
「コンフェラート様!?」
思わず令嬢らしからぬはしたない声を出してしまった。
執事頭とかなら客人が来るのを待っていることもあるが、家長自ら玄関の外で待っていてくれるなんてありえない。大体の到着時間は知らせているとはいえ。
「待っていてくださってありがとうございます」
「私があなたに早くお会いしたかっただけなので」
本当にリディアが好きなんだな。
その好意を少しはアルバートに分けてほしい。
天気が良かったので、庭でお茶会することになった。
お茶会と言っても二人きりだけど。
広大な庭は腕のいい庭師が手入れしているらしく、色とりどりの花が美しく咲き誇っている。種類は様々だが見事に調和している。
ところどころに配置された噴水やガゼボにもつる薔薇が巻き付いている。
なんとなく眺めていると、気を利かせたのか、
「散歩しましょうか」
「ええ。ぜひ」
正直花は綺麗だと思うけど、そんなに興味もないが。色気より食い気なので。
だが、普通の令嬢は花をめでるのが好きだからおとなしく同意しておく。
案内してくれながら、「これは○○科の○○です」だの「原産国はどこで花言葉は……」と垂れ流されるうんちくは「そうなんですかー。お詳しいですね」と適当に相槌を打ちながら右から左に抜けていく。
花に詳しいんだなーこいつ。
まあ人の趣味には口出ししねーけど、仕事も忙しいのに豆だなーと感心する。
慣れないヒールでちょっと歩き疲れたなーと思っていたところで、
「少し休みませんか?」
とガゼボに案内される。
気が利くな、こいつ。
白いアイアンで作られたガゼボの中には同じく白いアイアンのガーデンチェアが置かれていた。
クッションが置かれているので座り心地もよい。
オレが座るとすかさずコンフェラートもすぐ隣に座る。
「縁談を、申し込んでもいいですか?」
……うん?
おかしいな。聞き間違えたようだ。
「すみません。もう一度お願いしてもよろしいですか?」
オレが聞き返すと、
「縁談を申し込んでもいいですか?」
自分でも先走りすぎたと思ったのか、少し顔を赤らめてコンフェラートが先ほどと同じことを言った。
うっわぁ……。
聞き間違いじゃなかった!
「ええと……」
オレは言葉を選びながら、
「私の一存では決めかねますし、まだお会いしてそんなに経っていませんし……」
「では、フランシス伯爵の了解を取り、お互いをよく知ってからであればお受けしていただける可能性がある、と?」
にっこり笑うコンフェラート。
うわぁあー!
さりげなく断ったつもりが通じてなかった。
外堀埋めようとすんなぁー!!
親父は後先考えずこれ幸いと了承するに違いない。
「フランシス伯爵は遠縁ではありますが、父親ではありませんので……」
「では、あなたの姓を教えてください。先日、『次回お会いしたら教えてくださる』と」
やべ。墓穴掘った。
姓を名乗って調べられたらそんな令嬢いないのはすぐにわかるからな。
オレは慌てて言った。
「あー、でもフランシス伯爵がこちらでの父親のようなものですので、フランシス伯爵にお話いただければ大丈夫です!とりあえずお互いよく知ってから……」
「では、お互いよく理解できるように、仕事の都合がつけばフランシス伯爵邸にお伺いしますね?もちろんうちにきていただいても歓迎いたしますが」
……うん。
やっぱり墓穴堀った気がする。
その後飲んだお茶の味もケーキの味もよく分からなかった。
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