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ならず者に捕まりました

 それからコンフェラートはほぼ毎日空き時間を見つけてはうちに突撃してきてお茶して行くようになった。時には日が暮れてからくるので、アルバートが相手していたが会う機会が増えたせいかだんだん態度が軟化してきた気がする。  親父公認なので追い払うこともできず、オレは男か女のどちらかでコンフェラートの相手をすることになった。近頃はそんなに嫌な奴でもなくなったが、別に毎日会いたいわけではない。  今日は昼前に来ると言われているので、朝一でオレは屋敷を出た。  セシルに相手をするよう頼み込んで、馬車で城下町まで送ってもらう。セシルお気に入りのケーキ屋の限定品と引き換えだ。  ちなみに服装はアナベルに普段着のワンピースを借りた。  城下町を歩くのも久しぶりだった。  知り合いに会ったら面倒だからだけど、よくよく考えたら会ったところで別にバレないんだよな。アルバートとリディアの共通点は髪と目の色くらいだから。  オレは久しぶりに城下町の買い物を楽しんだ。すぐにケーキ屋に並んだので、限定品も首尾よく買えた。  まだ昼を回ったくらいだけど、そろそろコンフェラートも帰ったころ合いだろうし帰るか。  荷物も重いし。  やみくもに歩いていたら裏通りみたいなところに入ってしまった。  アルバートではそこまでの危険はないが、リディアはまずい。  オレは慌てて足を表通りに向けた。  まあ真っ昼間だし、夜間ほどは危険性はないだろうけど。  と、オレは安心していたのだけど、 「お嬢さん、こんなところに一人でいると危ないよ?」 「そうそう、オレたちみたいのに捕まっちゃうからねー」  背後からガハハ、とテンプレの悪役みたいな男たちの笑い声がする。  振り返ったらマズい。  うわー。そっこー見つかってしまった。  だよな。裏通りに迷い込んだらフラグ立ってるよ。 「荷物重そうだから運んでやろうか?」 「いえ、お気持ちだけいただきますね。では!」  丁重にお断りし、走り出そうとしたところで 「ちょっとお兄さんたちと遊んで行こうぜ」  あっさりと回り込まれてしまった。  ひげ面で小汚い服装のそこ辺のヤサグレ者ってビジュアルだ。モブその一って感じの。 「いえ私、急いでますので……」 「そんな時間かかんねーからさ?」  ニヤニヤした男がポケットからガラスの小瓶を取り出す。  ピンク色の液体が入っている。見るからに怪しいんですけど!?  ぜってぇー飲みたくない!  全力で逃げようとしたところを後ろから別の男に抑え込まれて、口から流し込まれる。  飲み込まないようにすきを見て吐き出そうと思っていたのに、鼻をつままれ勢い余って飲み込んでしまう。  苦くてすっごくマズい。 「ごほっ。ごほっ」  慌ててせき込んだが、一度嚥下したものはもう吐き出すことはできなかった。 「上手に飲めましたねー?」 「そろそろ効いてくるんじゃね?」 「何……」  効く……?  オレは怪訝な顔をしたがすぐに身をもってその言葉の意味を知った。 「……!」  体の奥が熱い。  くすぶるような熱がもどかしい。  オレの体を押さえていた男の手が離れると、もう立っていられずその場に座り込んだ。  下卑た顔をニヤつかせながら男がオレに手を伸ばす。  もうオレにはその手を振り払うことすらできなかった。  どうせ見てるんだろ。助けろ、魔女。  心の中で毒づくのがやっとだった。  こんなところでこんなモブにやられんのかなー。  オレが諦めかけたその時だった。 「はいはーい、お兄さん方。合意の上じゃないみたいだけど、マズいんじゃないのー?」  現れたのは飄々とした若い男。短めの髪は黄緑で、目は黄色。  どこにでもいる平民といった見た目で、ごつい体つきでもないし、そんなに強そうにも見えないが。  男たちもそう思ったのか、現れた男に一瞬ひるんだものの、なめた顔つきになっている。 「近衛兵たちも向かってきてるみたいだけど」  ほら、と男が顎をしゃくると、たしかにざわざわとした人の声が近づいてきた。 「ちっ」  舌打ちをした男たちが、一瞬名残惜しそうにオレを見た後、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。  ……助かった、のか? 「お嬢さん大丈夫ー?」  座り込んだままのオレを男が抱き起こす。  顔を赤くして荒く息をしているオレの様子にへらへらした顔がなりを潜め、険しい顔になる。 「……なんか飲まされた?」 「ピンク色の……液体です。それが何かは分かりません」  それだけで男には見当がついたらしい。  裏の情報に詳しいのだろうか。 「最近出回ってるあれかぁー」  男がオレの体を抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。ものすごく恥ずかしかったが、拒む元気はもうない。  体が熱くて辛くて、頭の中がぐちゃぐちゃで何も考えられない。 「助けて……」  オレは男の胸にすがった。話すのも辛い。 「りょーかい。女の子を助けるのは男の役目だからね」  微笑んで男は軽く了承した。  簡単に引き受けたけど、この男にはどのようにすれば、オレを助けられるか分かっているのだろうか。 「私はリディアです。お名前は……?」 「アーテル」  男がにっと笑った。外国語で黒の意味だ。  外国人には見えなそうだけど……ハーフなのか?  通り名?  その疑問はすぐに考えられなくなった。

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