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三皿目 魔王城の宝物庫
強さこそ全て。
わかりやすい国・魔界。
強大な力を持つが故に繁栄の歴史は長く、それだけに得たものも多い。
そんな魔界のありとあらゆる財を集めた魔王城の宝物庫は、城の真下──地下にある。
要塞のように広大な魔王城が全て倒壊したとしても、強固な結界魔法陣を重ねられた宝物庫には、全く被害が及ばないらしい。
中身は金銀財宝に溢れている。
侵略を好んでいた暴虐の魔王や、善政を布いていた優政の魔王や、その他歴代の魔王が手にした膨大な宝が全て収められた場所だ。
過去にはいくらか戦争に負けて譲ったり、散財して売り払ったり、なくなることもあった。
しかし出入りはあっても、魔王は歴代がみな、再び貯めるそうだ。
基本的に魔族は、キラキラした物が好きらしい。……カラスみたいだな。
確かにアゼルも魔王衣装の時、キラキラしたアクセサリーを身につけている。
あれは確か、魔王に就任した時に用意したものだとか。
大抵の魔族の衣服は派手だし宝飾品もなにかしらつけていて、ガドたち竜人もアクセサリーで角を飾ったりしていた。
よくゲームの中で魔王や悪魔は金銀財宝を溜め込んでいるから、そういう本能でもあるのだろうか。
理由はわからないが、兎に角宝物庫にはたくさんの宝物があるのだ。
今日の俺の仕事は、それらの在庫確認である。
とはいえ事前に書類や報告から算出した在庫数と齟齬 がないか確認するだけなので、出入りのあった財宝類だけだからそれほど大変な仕事じゃない。
歴史的や魔法的に価値がある物。
なにかしらが封印されている危険物や呪物。
純粋な宝石や金貨。
この三種類で、確認するのは最後のものだけ。
金貨は国の運営資金はまた別で、ようはタンス預金だが……少しずつ増えてるので、確認しなければいけない。
宝石も褒美にいくつかあげたので減っていると、書類には書いてある。
「記録にあるぶんだけの確認ですので、あまり気負わずとも大丈夫ですよ。一応宝物庫なので、信用できる方にしか手伝いを頼めなくて……」
「そうだな、俺はアゼルの困るようなことはしないからな」
「そういうことです」
解錠の長い呪文を唱えてようやく開いた巨大な扉を細腕一本でゴゴゴゴ、と開きながら、ライゼンさんはにこりと微笑んだ。
そうなのだ。
俺は一人ではなく、ライゼンさんと二人でお仕事なのだ。
二人でダブルチェックにすれば、もれなく弾き出した結果はブラッシュアップ。
それ故に、彼の頼みで俺はここにいる。
お世話になっているからな。こういうお手伝いはよくあることだ。
巨大な宝物庫の扉は俺とライゼンさんが入ると、ゴゴゴゴと重厚な音を出してまた閉まった。
密閉されているようだったのに、なぜか宝物庫内には空気が満ちている。不思議だ。
俺は書類を抱えたまま、ライゼンさんの後ろをついて歩いた。
見上げるほど高い天井と広々とした空間いっぱいに並べられた様々な財宝を、都会に来たてのおのぼりさんのように見上げる。
「凄いな……キラキラしている。目が痛いくらいだ。魔族はお金が好きなのか?」
「いえいえ、光り物が好きなんです。金貨なんかも綺麗でしょう? お金で取引する知能がある魔族は、大抵蓄財好きですよ」
ふふふ、と微笑むライゼンさん。光り物が好きなんて、やはりカラスみたいだ。
ライゼンさんは魔界においても神聖な空気を持つ、珍しい魔族である。
中性的な美貌を持ち、穏やかで楚々とした雰囲気だが、どこか禁欲的な彼も光り物が好きなのだろうか。
ふむふむ。いつもなにかとお世話になっているし、お礼をしないといけないな、と思っていた。
この間は執務室に乱入して獣耳タイムという大迷惑をかけてしまったしな。
(くっ……思い出すとまだ照れくさい……!)
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