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第61話

リシャールは俺が認めたから魂を取り出したと言った。 それに該当するのは、おそらく初めて出会ったあの時のやりとりだろう。 ──好きだと言ったから、か? それなら言わされた意味がわかる。言われなければあぁはなれなかったのだ。 深く息を吸って、ゆっくりと吐く。大丈夫。予想に過ぎない。迂闊な自分を締めるのは後回しだ。 暖かな体に寄り添い触れ合える距離を噛み締めながら、アゼルの胸、心臓のあたりに誓うように囁く。 「俺が愛しているのはアゼルだ」 すり替えられなかった心のままの言葉がその胸に染みて、俺は心底安堵した。よし、大丈夫。ようは事の真実を告げ口しなければ俺の言葉は俺のもののままなわけだ。心の矛先は変えられていない。 確証はないがそう思ったほうが気が楽だ。 ならばと気合を入れて、布団から這い出そうと動き出す、……のだが、未だに抱きしめられているので逃れ難く、困ってしまった。 もそもそと動いて起こさないよう覆い被さっている方の腕をゆるく退かそうとするが、眉間にシワを寄せて唸ったかと思うとよりしっかりと抱き寄せられた。 普段は身を寄せ合う位に解けているんだが……寝ながらも守っているつもりなのだろうか。そう思うと愛しくなるから余計に逃れ難い。朝のストレッチをしないといけないんだけれどな。 でも、寝入っているのを起こすのは可哀想だ。 殺気を感じたら飛び起きるアゼルは、そうでなければ睡眠は深い。本来が夜行性の種類だからだと思う。 俺としても温かいここを抜け出すのは至難の業だ。 少し笑って、もうちょっと充電しようか、なんて腑抜けた事を考えてしまう。 ──だが、俺の体は突然コントロールを失った。 「っ、……」 俺の腕は抱き寄せるアゼルの腕を強い力でゆっくりと退ける。 離れがたいと思った腕の中から、未練もなくあっさりと抜け出し立ち上がった。振り向きもしない、自然に離れる。 まただ。 何故だ?今は何もしていない筈なのに。 焦りと困惑が頭を支配する中、それが表情に出ている気が一切しない。どうして、わからない。なにがきっかけなんだ、これはなにの仕業なのか。 いつも通りのなんでもない表情のまま、俺は歩き出し、隠密スキルまで使って静かに部屋を出た。スキルまで操られるなんて。 そんなの……もう誰がどう見ても、外側は、俺でしかないだろう。 音を立てずに扉を閉める。 早朝の城の廊下は静かだった。 階下に行けば従魔達や勤める魔族達が一日の準備を始めているだろうが、俺達の私室がある階層はひやりとした朝の空気が立ち込める以外に何もない。この階層には俺達の部屋しかないからだ。 冷え冷えとした静寂の空気を肌で感じながら、迷いない足取りで北館の階段へ向かい始めた俺の足。感覚はある。だが、持ち主の意思は反映されない。 もしかして、呼ばれているのか。 吸い込まれるように進む体に、確信を持ってそう思った。 今回だけは都合がいい。行こうと決めていたし、聞きたい事が山程ある。訪ねるのが早まっただけだ。 足の行きたがるままに進みたどり着いた目的地。 静まり返った北館の階段を一つ降りた踊り場の絵画は、相変わらず愛おしそうに両手を伸ばしていた。

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