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第67話(sideアゼル)

後ろめたさに視線を逸らすといつもまっすぐ見つめるお前が不審になるからじっと目を見つめて、わざと当たり障りのない事を言って、否定も言い訳もしない。 触れる事をさせない嘘の吐き方。 きっと、裏の感情に疎い俺は、初めてそうされてもなぜそうされているのかわからなかっただろう。 実際に違和感だけを嗅ぎ取って、バカみたいに困惑しているだけだったんだ。 以前にされた。 本気で隠したい嘘を吐く時の……シャルそのものだ。 そう、嘘の吐き方もまるまるお前。 さっきのキスは疑う余地のない、お前の秘め事。 普段のように抱きしめて歩く事なんて、できやしなかった。今そんなことしたら、もう二度と腕の中から出してやれない。そんな恐ろしい気持ちだ。 やけに冷えた骨ばった手を掴んで、焦燥感に駆られ早く部屋に閉じ込めようと強引に手を引き歩く。 怖い。この手を握りつぶして俺の手と一緒くたにしてやりたい自分が、怖い。 壁にかかっていただろう絵画について尋ねると、そんな物はなかったと動揺もなく重ねて嘘をつかれた。 消えていたならもっと取り乱している。行方を知っているから当然に嘘を吐く。 言い訳も誤魔化しもしない。 言及すれば、もっと沢山の嘘を吐くのだろうか。 俺の知っているシャルは、傍から見れば馬鹿でしかないような真っ直ぐな男だ。 他人の嘘にすぐ騙されるのに、他人を騙す事なんて簡単にできない。それでも信じる事をやめないし、直線のままぶつかってくる。 ならば事情があるはずだ。 そうに決まってる、言えない事情が。 嘘を吐く事情が。俺以外とキスする事情が。 あるに決まってる。 そう信じているのに、問い詰められないのは……怯えているからか。 この手を離すと言われたら、またお前を酷く傷つけてでも縛り付ける自信がある。 その代わりに、お前から嫌悪と恐怖の目で見られるんだ。それでもやるだろう。 不安なのか。 曇り始めた心は、俺の繋いだ手は本当に俺の知るシャルなのかすら、全ての輪郭がふやけて見えた。 「歩くのが早い……」 「、ん……悪ィ……」 「っ……いや、いい。大丈夫だ」 焦るあまり早足になっていた俺を呼び止める声に、必死についてきていたシャルに合わせて速度を緩める。 隣に立ったシャルは、いつもと同じだ。間違いなく俺の愛する人。 そうだ。 まだ決めつけるな。 信じ続けろ。 事情を話してくれないなら、すぐにでもアイツの正体を調べて俺が知ればいい。事情がないなんて、そんなことはありえないだろ? 他の男を愛したなんて言葉は聞いてない、聞いてないんだから、まだお前の気持ちは俺のものだ。 聞いてない言葉は聞こえないままでいてもいいじゃないか。 「シャル……今日は部屋にいろよ。前と同じ結界、張る。……俺はやることがある」 「あぁ、わかった。俺は部屋を出る用事はない。絶対に出ない、絶対だ」 調べる間いつまたいなくなるのかが不安でそう言うと、シャルはいつもより強く頷いた。 言葉も強調するように重ねる。 過剰な束縛を嫌がられない事に安堵する反面、わざわざ強調したのは俺に悟られない為か?と悪い想像が一瞬よぎる。

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