俺が矛盾する心に耐えきれずに泣くと、必死にリシャールに俺の悲しみを取り除いてくれと叫んでいた。 本当は自分が駆け寄って拭いたかったのに、叶わないからと。 天使が作った呪いのような愛じゃない。 信じられない筈だ。 俺が愛していると言ったこれまでの日々が紛い物な訳がないと信じ続けた真っ直ぐな愛。 怒りも悲しみも自分の気持ちは全部我慢して、最後までお前は、俺の事ばかり。 そんなお前に、強制される力に抗うことができず、酷い仕打ちばかりした俺の、なんて滑稽な事か。 ──ピエロの中身は、俺だ。 仮面の下で、涙を流して。 自分の体に、杭を打ち付ける。 誰よりも幸せになって欲しい人に、一番してはいけない俺が残酷な裏切りを重ねるショー。 絶対に裏切らない筈の俺の裏切りを知って、もう、前のままの甘いだけの気持ちではいられないだろう。 声を出さないように、涙を流し続ける。 誰かを愛する事は、幸せだけじゃない事を思い出した。 気持ちの変化を見つけると不安になって、嫌な想像で前に進めなくなる。 焦りと混乱で余計に泥沼に埋まって、身動きが取れなくなって最低の結末を迎える。 あぁ、今まで俺はなんて夢のような愛を抱いていたんだ。 愛してる、愛してると、馬鹿の一つ覚えのように幸福だけをかき集めた日々。 絵画一つであっけなく揺らぐ絆。 本当に滑稽だな。 お前は宝物だと言った俺を守りきったのに、俺はお前を守れず踏み躙った。 「アゼル……ごめんな……」 どんどん水分を吸って色を変えていくブランケットに、小さな声で懺悔した。 俺は……自信が、なくなった。 お前に愛される自信が。 前だけ見てきたはずなのに、怖い…後ろしか見えない……立ち止まって、蹲って……無様で、惨めだ。ゴミクズだ。 「こわい……みっともない事ばかり……汚い、感情ばかり……不安で、ドロドロの……俺の……お前とは比べ物にならない、自分のエゴに塗れた愛……」 囈言のような言葉が、止まらない。 ブランケットに顔を埋め、目を閉じて弱音を吐く。 汚い俺を愛し続けると、綺麗なアゼルは今回みたいに傷ついてしまう。 だって、いやでも想像がついた。 俺が自ら飛び込んだのに、俺を刻んだからとアゼルはこんなに窶れてしまったんだろう。 いつだってひ弱な俺が傷をつけられると、守れなかったと自分を責めるんだ。 誰よりも強いのに、俺を盾にされると手も足も出なくなる。俺は足手まとい。身に染みてわかった。 なのに俺は……離れたくないと思っている。 この指輪は俺のもので、アゼルの指には俺の指輪しか許せないと思っている。 こんなみっともない独占欲。 泣いて縋ってでも俺をと願う不格好な愛。 俺はこんなの、お前を好きになるまで知らなかった。 嫌われたかもしれないと、怯えるこんな気持ちも。あれだけの仕打ちをしておいて図々しく膝に縋りつく浅ましい衝動も。 知らなかった。知ってしまった。 見窄らしくなった腕を懸命にアゼルの身体に這わせる。 服を掴んで、止まらない涙で濡らしながら、綺麗なだけじゃいられない自分の心を月夜に任せて弱々しく吐露する秘め事。 「お前だけが俺の、〝愛する王子〟だから……」 「──……それじゃあ、俺の姫なら王子の腕の中で泣いたりするなよ」 「っ、」 悲しそうな、祈るような響きで、意識を失う前にも聞いた低く愛おしい声がかけられる。 それと同時にふわりと枯れ木のような身体が抱えられ、俺は縋りついていた膝の上に乗せられ抱きしめられた。