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第87話

アゼルは俺が自分の思いを責め立てているから、そんな事はないと言う言葉だけで否定するのではなく、自分の隠していた心を明かしてくれた。 余裕のない綺麗なだけではない部分。 そこを明かすのは誰だって怖い筈なのに、素直に胸の内を告げる事がうまくできないアゼルが自分から明かしてくれたのだ。 「俺の方が、っく、ずっと前から、ふ、意地汚く愛してるんだよ…っ」 零れた涙が俺の手に染み渡る。 目は逸らされなかった。 自分を恥じながらもじっと俺を見つめる瞳。 泣きながらアゼルは下手くそな笑みを浮かべる。ちっとも笑えてない。 だが、俺も同じ、くしゃくしゃと崩れた、下手くそな笑顔を見せた。 些細な事で不安になるのはそれだけ終わりが耐え難いからだ。愛する人を殺しかけたお前、愛する人を殺させかけた俺。 きっと、それはお互いに怖い愛なのだろう。 ……だけど。 「そ、な……俺が、こわくなったか…?俺の気持ちは、汚くて、醜いか…?」 「馬鹿……全然だ。むしろ、構わないと思った。俺が弱くて……お前の枷になって誰かに殺されるなら……その時は、お前に殺されたい……」 「っ…そう、だろ…?だから……お前の離したくないって我儘は……俺は、すごく嬉しい」 「うん、」 「……綺麗だ、お前は」 「うん、」 「──…ッ、シャル…っ、好きだ…っ!」 その言葉と共に、堰を切った衝動のままもう離さないと強く抱きしめられた。 お互いのみっともない所も全部曝け出した、格好悪くて、無様で、必死で、情けない俺達。 迷って疑い、嫌だと駄々をこね、満身創痍にならないと抱き合う事も叶わないなんて。 半透明ではない力強い腕。王子様のように繊細ではない、荒々しい抱擁。スマートな言い回しなんてできないお前は、この腕に全てを込める。 不器用な魔王の腕の中。 そこに収まった俺は、張り詰めていた糸が全て解け落ちた安心感で全身に熱が入った。 帰ってきた──やっとだ。 ここが俺の居場所。 自分の価値を見失った時にも、お前は走り続け、俺を抱きしめてくれたな。あの時の気持ちと同じだ。同じであって、そして更に強固だ。 懸命に腕を回して、もう二度と離すものかと誓う。 こみあげて来る本物の幸福に、心から体中が満たされている。愛されると言うのはこういう心地。お前に愛されている限り、誰にも譲れないもの。 「も、すきだ…っおれもすきだ、!ほんとにほんとに、おまえだけ、おまえが好きっぁ、あぁぁ…っ!」 言えなかった分を埋めるように、俺達は抱き合って声を上げた。 「こ、こわかったっ!失うと、っふ、おもった、ッ血の中でお前がっ、ひっぅ、ぁ…っ!俺、お、前がいないと…っだめ、ダメなんだっ…!急に、なにも感じなくなって…っ」 「うっ、ぁっこわっ…!おれ、おれも…っ!こわ、かっ…!っはっ、っ…お前じゃない、やつに…っんっ、ふ、触られるの、嫌だった…ッ!おっおれもう、お前以外愛せないんだ…っ」 恥も外聞もごちゃごちゃしたものを全部取っぱらった嗚咽混じりの泣き言。 あぁ、やっぱり、俺達は二人じゃないと、だめだな。 同じ気持ちで寄り添っていないと、まともに笑えもしないんだから。 お互いがお互いに相手には幸せな気持ちだけを、と、格好をつけたがったから、気持ちが見えなくなるとすぐに不安になって、世界がどんどん色褪せる。 お互いが一緒でなければ世界の色がなくなる。 もしあのまま離れ離れに生きていたとしても、二人で見ていた景色より綺麗な世界は見られないだろう。 見えない気持ちを全部吐き出した。 余裕なんてない、もがいてもがいて血にまみれて譲れないと抗う事を、怒りも悲しみも嫉妬も全部、感じていた事全部を相手に渡した。 勿論それは怖い。 今はよくてもこの先嫌になるかも知れない。 だけどこれからは、前よりもっとお前を沢山愛せる。 前よりもっと、好きになる。 それって、言わないよりもずっと素敵な事だろう? 喧嘩をしないと仲直りができない。不安にならないと安心に気付けない。言葉の大切さ。口にするそれは自分の心。それを言葉にして相手に渡す。 心をちぎって跪き、お前に差し出す俺が姫。 それを受け取り、同じだけを受け取れと抱きしめ、心臓を隣り合わせて共に生きるお前が王子。 ポロポロと泣きじゃくって好きだと言い合い子供のようにしがみつきあう、ロマンチックとは程遠い不格好な王子と姫だが。 これが俺達らしいハッピーエンド。 俺の心は俺のもの。俺の愛する人は一人だけ。 ──俺の愛する人は、絵画も妬む王子様。 四皿目 完食

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