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第86話✽

「そんなお前のどこが独りよがりなんだよ……お前の言う薄汚れた過去とか、醜い感情とかを、俺は何杯も黒く煮詰めて腹に溜めてる」 「アゼル、」 「俺、誰かを殺して胸を痛めた事なんかねぇんだ。この間、たくさん人間の軍隊を斬り殺した。あの幽霊が現れた時も、まず殺意を向けるような男だ。俺は本当に……大切なやつ以外は、もうシャットアウトしてんだよ」 言葉を紡ぐ度に痛そうに、俺の様子を伺うようにゆっくりと瞬きをしながら、それでも隠していた黒い感情を吐き出すアゼル。 触れる額が、頬の手が、温かい。 同じ体温を共有しているのに、アゼルは俺のように自分より人を優先できないと言った。 俺でさえも、譲れないと言った。 「俺は呪いや制約なんて知らなかった時、お前の心変わりを懸念した。だが自分本位の俺は……お前を縛り付けて、どこかに詰め込んで隠してしまおうと、思って、た」 「……」 「──そしてそれは、今も変わらねぇ」 「っ…」 「お前はさっき、この先もお前を人質に取られたら死んでしまうかもしれない俺を、それでも離してやれないと泣いただろ。今まで知らなかった自分の独占欲が、醜く汚いと、苦しんだだろ?」 ポトリ、ポトリ。 熱い雫が流れ落ちる。 綺麗な男の、醜い告白の苦痛を、物語るように流れ落ちる。 俺は両手でされているのと同じように、神秘的なまでに濡れていく頬をそっと両手で包み、温めた。 お前が涙すると俺の心臓は急かし始めるのだ。 どうかいつも暖かであって欲しいと、願わずにはいられない。 月明かりだけが俺達を照らす静かな部屋で、弱りきった身体を触れ合わせ、お互いの湧き上がる綺麗なだけじゃない愛を語る。 愛情が過ぎると動けなくなる。どちらかの愛がわからなくなればすれ違い、疑心暗鬼になる。愛しているから、愛して欲しいから。もう愛していないなんて、信じたくなくて抗うのだ。 唇を震わせる度に瞳を潤ませついに泣き出したアゼルは、ヒク、と喉を鳴らした。 薄皮一枚の仮面もない、ありのままくしゃくしゃに歪んだ表情。 「俺、な。っ…く、お前がアイツを愛していると言った時、──お前を殺そうと、思った」 お前が泣いてすぐに我に返った。 でも嘘じゃない。本気で、盗られるなら、縛り付けても死んでしまうなら、いっそこの手で殺してしまおうと、思ったんだ。 泣きながら謝るアゼル。 ガタガタと震える白い手。 怯えられるからと、アゼルの隠していた、愛情の裏返し。 深すぎる愛は黒く染まる事を、懺悔のように告げられる。 本当に、どうあっても、殺してでも、誰かに渡すことはできなかった、と。

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