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第89話

「いや、アゼルは載ってないが俺は載ってるだろう?昔アゼルにお詫びする為にアクシオ谷までお前に運んでもらったり、あぁ、お菓子屋さんの配達が間に合わないからカプバットに運んで貰っている。他にも色々細々と、俺は頼りっきりだぞ」 俺は考えるまでもなく否定した。俺のどこを見たら人に頼らなくてもピンチを乗り越える強かな人間に見えるのだろうか。寧ろ頼りすぎるくらい頼っているが…? でもまぁ、アゼルは確かに真剣な事はちっとも頼らないからな。 命令はするがそれだけだ。 例えば仮に仕事が多くて毎日が辛いと感じていたとしても、黙ってずっと一人で全部こなすタイプだ。本当に助けて欲しい時程それを悟られまいとし、自分で抱える。 怒り方でもわかるだろう、本当に怒ると無表情だからな。本当に溢れ出しそうな感情はめちゃくちゃに押さえつける。とことん追いつめられないと弱音を吐く事すらできない。 現にそれで数十年間ずっと孤独に黙々と魔王業をしていたわけだからな。 よそからの刺激で不安になりがちな繊細な男なのに、我慢強くていけない。根っから強がりだから手に負えないんだ。 耐え忍ぶのがうまくないのに耐え忍ぶもので、実際に数十年間耐えられたから始末が悪い。 外側が強いから周囲も気が付けないんだ。俺としてもこれは困った所である。 そう説明して頷いて見せた。 だがガドは違う違うと首を振り、俺をビシッと指差す。 「いいや、ダブルコンボで載ってねェ。こういう、本当に大変な時はお前ら自分だけでなんとかしよう〜って前提でいんだろォ?選択肢に、俺を頼るというのがねぇ。大問題だぜ」 「それはアゼルだけだろう。そしてガドをピンポイントで頼るのか」 「まァず俺。そしてその他」 なるほど、ガドを初めに頼って欲しいようだ。 可愛らしかったのと気持ちは嬉しかったのでヨシヨシと頭を撫でてあげると、尻尾のフリが機嫌良さそうなものに変わった。 んん、ガドは細身で爬虫類じみているが身長百九十センチはある大きな男なんだがな……人懐こい竜人なのでとても可愛い。ガドはいい子だ。 「ン〜……じゃねぇ。シャルゥ?お前もだぜ。お前ら二人の騒動、勇者連れ去り事件と、絵画王子事件。俺達はいつだって事後報告なんだよ。おかしい!ってなった時にはもう終わってんの」 「それ二つとも報告する暇なかったぞ。それに自分の不始末を他の人にどうにかしてくれないか?なんて言わない。俺はそこまで馬鹿じゃない」 「暇なんていくらでもあるだろォ?両方とも最中に魔王は何も言わなかったぜ。お前は魔王に泣きつく事も、今回俺を呼ぶ事もなかったぜ。イケナイなァ……クク、シャルはお馬鹿だ。ちょびーっとは魔王を頼るようになったのはイイコトだけどなァ」 「ん……情けない事に、無条件に信じてくれる筈だと託すしか無かったからな…」 頑なにせがまれて事の次第を全部話したので、ガドは全て知っている。 頼るというか、甘えや願望だったのかもしれないが、アゼル任せだったな。アゼルに信じてくれと厚顔無恥な発言をしていた。うーん、考えれば考えるほど俺は人に頼っているぞ。甘ったれだ。 するとガドはもう一度デコピン、いやデコフワでそぉーっと俺の額を弾いた。ピンしていいんだぞ。勇者さん、いやシャルさんは頑丈だからな。 「根本的な俺の指摘をわかってねーなぁ……。いいかァ?仮にお前、今回みたいな面倒くさい敵に目をつけられて、敵わないのに戦う事になったら?」 「それは……とりあえず剣と魔力を返して貰う」 「それから?」 「筋トレと鍛錬だな。装備も新しく買いに行く。貯金があるからな」 「んでその後は?」  「戦いに行くぞ」 「一人でだろ?」 「?それはそうだ。俺に目をつけたのなら他の人を巻き込むのはよくない。できる限り強くなるよう努力する。勿論人にも頼るぞ。優秀な人に戦い方を教わった方がいいから、稽古をつけて貰おう」 「それェ」 いやどれだ。 もう迂闊に死にかけないように努力もするし、道具も使うし、人も頼っている。俺は最大限頼りっきりのおんぶにだっこなあまちゃんじゃないか。

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