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第90話
自分の発言を思い返してみても、俺はなにもガドを不服がらせる無謀な事は思ってない。
どうしたものかと悩みつつも正直難しい。
本当はあまり心配も掛けたくないからひっそりと敵を暗殺してひっそりと帰ってきたいのだが……それだと叱られるのでああしたんだぞ。
「その顔はまだわかってねーなァ?じゃあもし魔王とすれ違ったままずっと絵画の力に縛られていたらどうすんだ?ン?」
「絵の事を調べたり、異常を伝える方法を模索したり、きちんと抗ったに決まっている」
「んー……あのなァ、なんで俺んトコこねえの?」
「ん?」
不満の声を上げられ、今度はそぉーっと額を叩かれた。
叩かれたというか、撫でられた。もう三回目だが、叩いていいんだぞ。合言葉はシャルさんは頑丈、だ。リピートアフタミー。今のは冗談だ。
「人が増えたらそれだけ視野も広がるし、誰かが変だと気がついたかもしんないだろー?それに伝わらなかったとしても守ってって頼めば、うっかり切り刻まれる事はなかったぜ。俺が刻まれる前に防御魔法貼れたかも知んねーし、お前より早く絵画に走れてたかも。かーも」
そんなこと思いつかなくてぽかんと見つめると、ガドはかもかもと言いながらぐっと顔を近づけた。至近距離にやってきたのは何時もと同じにんまりとした笑み。
でもやっぱりその目は寂しそうに思えて……俺はしょんぼりと肩を落とした。
昔の話を思い出したのだ。
ガドは昔アーライマ探索の時も俺が落ちるかも知れないと言って心配し、大丈夫だと一人で登れば珍しくしょげかえっていた。
「さっきの例え話で言うと、なんで俺に〝一緒に戦いに行ってくれ〟って頼まねェの?前提がダメ。自覚がねぇのはもっとダメ。ダメシャル。俺を呼ばないシャルはダメの中のダメってやつだぜ」
「う……そ、その考え方は、なかったな…」
「くくく」
有効な返答を持ち合わせていない俺がたじろいで負けを認めると、ガドは満足そうにほらな?とでも言いたげな表情をする。
なるほど……辞書にない、と言ったのはそういう事か。
確かに、俺の選択肢にはソロしかない。
ゲームで例えるとみんなで倒した方が簡単な高難易度モンスターに、わざわざ一人で挑むと言った感じか。
だが言っている意味を理解してもそれが悪い事な気はしなくて、うまく納得してあげられなかった。
誰かに面倒を分けたり大切な仲間を危険に晒すなら、自分一人の方が俺の心も気楽なのだ。
だからますますわからない。
けれどガドを悲しませたのが辛く、伺うような表情をしてしまった。ポンポンと撫でてやると、そっと抱き寄せられる。
勿論、物凄くゆっくりかつそぉーっと。
死なないから普通に抱きしめてくれ。やはり冗談じゃなくリピートアフタミーというべきだろうか。
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