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第91話

「一しか熟せない弱々のお前が、二も三も努力して、十の問題を熟そうとする。代わりにお前はボロボロだ。ボロボロに慣れてるからお前は麻痺している。俺が手伝えばボロボロにはならないってのに。まぁボロぐらい」 「買いかぶり過ぎだと思うが……言いたい事はよくわかった」 「もっとちゃんとわかれ。俺はお前らを、そうしてやりてェの。それがお気に入りに対するガド長官の軍規だぜ。軍規違反はダメだ。わかれよォ」 「……うん、ありがとう。でももう十分頼って「ねェ」……ん、ん……そ、そうか」 すっぱりと切り捨てられどぎまぎしてしまう。本気すぎる。そんなガドの気持ちは申し訳なさがあっても、心は嬉しかった。 人に頼るのが苦手だ。無償で頼るのは不可能に近い。 でもこう言って貰えると、次に本当に苦しい時は、ガドの手を取れる、かもしれない。 俺は……大切だからこそ、弱さを見せたくない。自分の問題で傷つけたくないと言う気持ちの方が大きい。弱いからと見捨てられたくない。弱いせいで守る為に傷ついて欲しくない。 守りたいのだ。俺は弱いが、それでも守りたいのだ。 本当に嫌だから。自分が大切な人を傷つけるのはこりごりで思い出すと自分が嫌いになる。あの夜ああ言ってくれたアゼルがいなければとっくに沼に嵌っていただろう。 けれどきっと、頼って欲しいガドを頼らないのは彼を傷つけるんだな。 心で頷き、逞しい背中に腕を伸ばして背を撫でる。撫でられるのが好きな彼は嬉しそうに話を続けて語りだした。 自然に誰かに触れて貰える事こそない恐ろしい種族であるガドだが、自由人にも関わらず部下に慕われていて頼り頼られするらしい。 だめだと思ったら誰かに相談するし、逆に誰かから相談される事もある。 持ちつ持たれつ。お互い大切な人ならば、それは当たり前の事だという。 ガドは、俺もアゼルも大好きなんだと。 だから除け者にするなと言われた。 前は何も言わなかったが、こう見えて過保護で心配性なガドは、ずっと不満だったんだろう。 わかってはいても、頼られないというのは除け者にされている事。 心配すらさせて貰えない。気がついたら終わっている。言わないでいるのはエゴなのだ。 俺も混ぜろと恨みがましく告げられるが、機嫌は良さそうなガド。 相変わらず触れ合うのが好きなんだな。殊更優しく撫でてやると、ついにニマニマ喉を鳴らした。日向ぼっこしているトカゲみたいだ。 「意気揚々と頼れよォ。それにお前にキく言い方をするとなぁ……自分を守る事が、魔王を守る事なんだぜ?」 「アゼルを?」 「そそ。アイツにもそう言って殴ってやったけどな」 殴ったのか。 ビクッとつい過剰に反応してしまうと、ガドはクククと笑いながらほぼ無傷だったけどな、と付け足した。よ、よかった。 だけどガドは、ふぅ、と呆れたようにため息を吐く。 「お前が死にかけて、魔王は一回ダメになった。自分の体を切り刻んだ」 「っ、な…っ!」 焦って抱き合った身体を離し、ガドに食い気味に顔を寄せて肩をつかむ。 なんでそうなる…! アゼルは泣きながら自分で俺がいないとダメになると言っていた。だがそれがどうしてそうなったのか。 焦る俺を落ち着けと宥めて、ガドはアゼルが話してくれなかった俺が眠っていた間の話をしてくれた。 「俺達が部屋に乗り込んだら、瀕死で血塗れのお前とその手足を抱えた魔王がいた。とにかくライゼンがお前を治療して運び出したけどな、魔王は黙り込んで動かなくて、この部屋まで引きずってきたんだぜ。俺が」 「……」 「そんで夜まで処置して峠は超えたんだけど、そうなって漸く黙ってた魔王が話したと思ったら、お前と二人にしてくれって言った。だから俺達は何も聞かずに部屋を出たわけだ」 「…ん…」 「でも俺は扉の前で魔王が出てくるのを待ってた。したら、中から嫌な音が聞こえてなァ?部屋に入ったら、あのバカ。自分の鎌で自分を切ってたワケ」

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