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第92話

魔王は魔力が尽きるまでは身体を裂かれてもじわじわ回復する。 吹き飛んでなくなったら分かんねーけど、切られたぐらいじゃ死なない。 とは言え眠るお前を見つめながら躊躇なく自分を虐める姿はぶっ壊れてたから、俺はバカヤローって殴ってやった。 すぐにくっつくにしても、やっぱりそれまですごく痛いぜ。いくら魔族が体の痛みに慣れていても、頑丈な魔王の体に傷をつけられる程痛い攻撃なんだ。 痛いと言う生き物の生存本能に逆らう魔王は、きっとあの瞬間は生き物じゃなかった。 それでもシャルの前でシャルの大切な魔王にそんな行為、俺が許すわけねぇだろ? ぶん殴られた魔王はあっけなく倒れた。 自分を守っていなかったからだ。 魔王は倒れ込んだままピクリとも動かず丸くなって〝俺がバラバラにしたから、同じ罰を受けないとシャルは目を覚ましてくれない〟って、まあ、お前の事に関しては愚直だからな。 そう思ったからそうしたんだよ。魔界一の馬鹿だぜ。 俺は切り刻む代わりに本気出して殴って蹴って正気になれって毒まで使ってどうにか大人しくさせてから、無理矢理語らせてやっとどういう訳か事情を知った。 「その時の俺の気持ちがどんだけぐちゃあってしてたか、お前ならわかるだろォ?」 「あぁ……よくわかる。……ごめん、ガド」 「魔王とシャルは俺の特別、お気に入りなんだぜ。俺はその絵画も愛の天使も全部憎くて仕方なかった。お前らはなんにも悪くねぇのに、ボロボロだ。ライゼンだってこれを教えたら、自分がシャルを宝物庫に連れて行ったからってな?魔王に土下座したんだよォ。クックック。あいつは特に魔王を敬愛してるから」 「馬鹿な、ライゼンさんは」 「悪くねぇって」 「んぐ、」 「言うと思った。くくく……シャァル〜、お前はイイコだ。んー…」 「ガド、俺は猫じゃない…」 食い気味の否定を笑われ、顎の下を擽られて、硬い手がこそばくてふるふると首を振る。 あの夜のアゼルがあんなに窶れていたから、自分を責めたんじゃないかとは思っていた。 だけどもっとずっと深く、アゼルの中の俺は大きかったようで。 ガドの気持ちや、ライゼンさんの事も含めて、ガドの言いたい意味が漸く俺にもわかった。確かに、俺に効く言い方だな。 「お前がなりふり構わず俺らを頼って自分を守らねぇと、ホントに魔王は死んじまうのよ。わかったかァ」 「んん、わかった、わかったから、擽ったい、」 「ククク、にゃーって言ってみ?」 「にゃー…」 なんだか弄ばれているが身に染みてよくわかったので、素直ににゃーにゃーとおもちゃにされる事にした。ガドには頭が上がらない。 自分を刻んだアイツの気持ちは痛い程わかる。 俺だってアゼルをこの手にかけてしまったら正気を保つ自信がない。錯乱して後を追ってもおかしくないくらい、俺はアイツに生きる幸福を貰っている。 そうか、俺は俺を守らないとダメなのか。それは苦手だけど……アイツを守る為にめいいっぱい、せいぜい無傷で生き抜かなければならないな。 手のひらを返したように強くそう思った。 さっきまでピンときてなかったのに、単純な自分にちょっと呆れて笑ってしまう。 俺は血溜りに沈んだ時、アイツとは真逆に満ちていた。全てが俺の元に帰ってきたから。 自覚したがやはり俺は、アイツへの愛情が……うん、ある程度、いやかなり、ううん。溺れる程、強いみたいだ。 アゼルも、アゼルを愛する気持ちも、欠片まで俺のものだ。 誰かに譲るくらいなら死んだっていい。俺のものを奪うならいくらでも戦ってやる。アイツを傷つけた者には負けるとしても剣を奮って挑むだろう。 だが──そういうわけにも、いかないか。 喉元をくすぐってくるガドの頭を撫でて、ため息混じりに笑って見せる。 「それじゃあ、これからも沢山頼りにさせてもらおうか、ガド」 「おうよ」 にんまりと笑顔を返すガドは、満足そうに尻尾を揺らして俺を抱きしめた。 俺の魔界で初めての友人は、それはそれは頼もしい竜人さんである。 ──余談だが。 その後トイレに行こうとすると安静にしろと頑なに阻まれ、俺は危うくこの歳にしてシーツにビックな地図を描く寸前だった事を、密かにお知らせしておこう。……水差しを渡された時は頭を抱えたぞ。 最終的に抱き上げられトイレまで運ばれたから危機は脱したが、頼るの方向性についてしっかりアゼルと並び立つ過保護二大巨頭の片割れに言い聞かせた俺だった。 もはや介護だと言う事に気付いて欲しい所だな。 後話 了

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