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第94話
「だから、働かなくたっていいんじゃねぇか?そうか、俺の補佐になればいいだろうが」
「だから、人間の俺が政 に深く関わるのはよくないだろう?それに俺のお菓子が好きだと言ってくれる人達がいるのは嬉しい。やりがいがある」
「手ェ触られてただろ!ガッシリとだぜ!?」
「握手だな」
ガルルルと唸るアゼルは納得いかないようで俺をじろりと睨むが、ただの握手に罪はないのでノーと腕をクロスさせバツを作る俺。
バトルフィールドは新築の俺達の部屋だ。
室内は元通りの設計で、叩き割ったテーブルや家具家財も元通り。
ローテーブルとセットで置かれたティータイム用のソファーに隣同士座る。隣のアゼルは不機嫌顔を隠しもしない。
事の発端はついさっき。
アゼルと用事があったがその前に食堂にお菓子を届けると「お妃様のお菓子大好きです!」と陸軍の小さな獣人に握手された。それをアゼルがうっかり目撃してしまった事だ。
食堂から部屋に帰るまで、ずっと無職になれと言われている。
俺は性分が向いていないので無理だと断り続けているのだ。
以前なら別になんでもないと言ってツンと拗ねるぐらいだったが、こうして要望を突きつけてくるようになった。
小競り合うのはよくないが、伝いあえるのはいい変化だ。
そうだな……握手は控えよう。けれど辞めるのは嫌だぞ。
言う事を聞く様子がない俺に、アゼルはむくれて文句を言う。
「俺と仕事どっちが大事なんだよ」
「お前だな」
「あぅぉ……っ、んんっ、じゃあ仕事はなくてもいいだろ!」
「それとこれとは別問題だろう?んん……もう握手しないから、許して欲しい」
「そもそも俺以外に好かれてんじゃねえ」
ふんっと不貞腐れつつ顔を逸らされ、流石の俺でもむっとへの字口になってしまった。
そんな事を言い出したら俺にだって言い分はあるぞ。
前々から思っている事だ。アゼルはモテる。お前を好きな人はみんな好きだが、恋愛感情となると少しモヤモヤしてしまう。アゼルはそれをわかっていない。
「俺は好かれてない、お菓子の方だ。それにお前だって誰彼と好かれているだろう?そこはもう魔力による強制魅了だとこじつけて納得して、我慢しているんだ。お互い様じゃないか」
「あぁん?俺は好かれてねぇぜ!女は大体俺を見るとヒソヒソして悲鳴をあげやがる、怖がられてるだけだっ。大体お前はガードが甘いんだよっ、大概のスキンシップを許しやがってアホかっ!」
「アホだと?お前こそそんな視線で幾人かオトしていそうな顔をして、いつまでモテないと思いこんでいるんだっ、鈍ちんもいい加減にしろ。馬鹿アゼル!」
「ば、馬鹿じゃねぇだろ!?鈍いとかてめぇにだけは言われたかねぇぞ!そういう無自覚な所が気が気じゃねえんだよ!」
「どういうところだ!わからないぞ!」
引っ込みがつかなくなったのかお互いに噛み付いてしまい、ソファーの上であぁだこうだと文句を言い合う。たまに言い合うが、この話はもう仕方がない。
まったく、アゼルはなんでモテないと思っているんだ!
お前は知らないかもしれないが、数少ない魔王城の女性魔族に見たら一日いい事があるとかラッキーアイテム扱いされているんだぞ!
そして最近俺が男なので男性にもワンチャンあると思われ、見合いの絵画に男が混ざるようになってきた……!職なしになったら付け入る隙が増える!
可愛くない自分だが、譲る気のない俺にも言いたいことがあって後に引けない。
怒っているわけではないが、お互いに言いたいことを相手に言いたいのだ。
そうこうしていると、不意に勢い余ったアゼルが、ある言葉をポロっと溢してしまった。
俺の禁句を。
「こっこの魔界版ジャイ○ンめ!」
「!ジャイ○ンって誰だよっ!?ほ、他の男の名前出すな!俺がいるってのによそ見しやがって、ふんっ、そんなシャルなんか、嫌いだぜ!」
「んなっ……!」
「あ」
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