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第95話

これまでの勢いが、たった一言で沈静化した。 打って変わって黙り込んだ俺は、ポスンと勢いで浮かせていた腰をソファーに落ち着ける。 今なんて言ったんだ、馬鹿。 ギロリと横目で睨むとアゼルは見るからにあわあわと慌てだすが、知ったことじゃない。 「言ったな……?俺は呪われたってそれだけは言わなかったはずだぞ……?」 「シャ、シャル……」 「もう知らん」 込み上げてくる怒りと、なんとも言えない複雑な心情で、俺はじわぁと涙目になってしまう。 ふんと今度は逆に俺の方がそっぽを向くと、アゼルは急いで俺の目線の前に回り込んできた。 もごついてるのが見えるが、またふんっと顔をそらす。知らん。 そんなことを言われて、俺がなんとも思わないと思ったのか? アゼルは馬鹿だ。馬鹿アゼルだ。酷いやつだ。もう知らない。 「ぐす……実家に帰ってやる……ッ魔界なんか……っ魔界なんか滅びてっ!いや駄目だな台風直撃、んんっ、と……っ……ちょっとだけご飯がまずくなる、うう……っ……み、みんな幸せに暮らしていろッ!」 「!?」 「アゼルだけにはささくれが長引く呪いをかけてやる……!ぐすん、気になって集中力がなくなっても、もう知らないからな……!」 「べ、別居はやめろっ、おっおおっ、おっ俺が悪かった……!」 「こんな魔界出てってやるぅゔ……!」 「嫌いじゃないですごめんなさいつい意地を張って悪い言い方をしてしまいましたごめんなさい俺の悪い癖ですごめんなさいッ!!」 半泣きで膝を抱えて呪詛を吐く俺に、アゼルが世界滅亡を阻止する勢いでとカーペットの上に膝をつき、必死に土下座をし始めた。 ガンガンと硬質な音がしている。 頭がめり込みそうな土下座だ。 それと共にアクセサリーがシャラシャラ揺れて綺麗な音がするが、額をぶつける音で相殺されている。 アゼルのそんな姿を見ると、意地を張って拗ねた俺だがじわじわと胸が痛んできた。 そうさせたいわけじゃないぞ。 だけど拗ねずにはいられないんだ。 大人気ない自分を恥じて、ゴシゴシと目元を擦る。 だが俺は、嫌いと言われるのだけは冗談でも許せない。だって冗談でも物凄く泣きそうになるからな。 アゼルは持病のツンのあまりうっかり拗ねて口にしてしまう事があるが、そうなると俺が逆に全力で不貞腐れる。 その度に土下座して謝ってくれるので、大抵のちょっとした小競り合いはアゼルの敗訴で幕を閉じるのだ。 それがわかっているから全力でそっぽを向ける俺は、悪い男かも知れない。 そう思った俺はこれ以上悲しませたくないので、謝るアゼルに膝を抱えながらも「もう許す、拗ねてごめんな」と言って手打ちにした。 アゼルは生きるか死ぬかといった表情を一転、ぱあっと目を輝かせて、黙って隣に座って抱きついてきた。寧ろしがみついている。 うっかり言っていいこととだめなことがあるんだぞ。 嫌いとか言うな。悲しいだろう。馬鹿。 だって俺はお前が大好きなんだ。 「なんだそのそこはかとなく優しい呪い。滅びろぐらいガッツリ大声で言えよ。実家てお前異世界だろうがオイ」 「んん?リューオ。いつからいたんだ?」 「テメェが拗ねるちょっと前」 これにて一件落着、な俺達の耳に、突然後ろから呆れた声が聞こえた。 振り向くと声の主、リューオが胡乱げなジト目で俺達を射抜きながら、向かいのソファーに相変わらずのヤンキー然とした態度でドサッ、とふてぶてしく座る。 いつもどおり金髪ツンツンで目つきが悪くガッシリとしているリューオ。 リューオはガラが悪いがそれは性分で、本当は仲間思いの勇者さんだ。 自分の意思表示をはっきりすることにかけては、魔族並かそれ以上の人間詐欺男である。 全然気付かなかった。 そういえばアゼルとの用事が終わったら、俺のトレーニングに付き合ってくれる約束をしていたぞ。 「ああ、そうだ。実家は魔界に来たばかりの時の前の部屋だから、別居というわけだな」 「結局テメェも魔界在住じゃねェかッ!しかもおんなじ城の中で別居って言わねェわアホ!」 リューオは勝手にローテーブルの上のティーセットから紅茶を入れて、バカを見る目で俺を見ながら喉を潤す。 うん、魔王より勇者の方がジャイ○ンだった。俺様何様リューオ様だからか。

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