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第96話
♢
チリン
「ん、これで魔力は全開放だぜ」
「ありがとう」
暫くティータイムにしてから、しがみついて離さないアゼルが漸く当初の目的を達成してくれた。
前回のVSリシャールを踏まえて、デンジャラスな魔界での危険対策に魔力を全開放して貰ったのだ。
帯剣しない事を条件に、剣も返して貰った。人間が武装して変に魔族を刺激しないようにと言う事なので、召喚魔法域に仕舞っておく。
フルパワーの自分というのは本当に久しぶりだ。
剣は時たま自己鍛錬していたので大丈夫だが、以前のように魔法陣や魔法を使えるかちょっと自信がないぞ。
魔封じのチョーカーは全開放してもそのままつけておく事にした。しっくりくるからな。
紅茶を飲んでいるリューオが、前のめりに興味津々と俺の魔封じのチョーカーを見つめてくる。
「これで完全体シャルなワケ?」
「そうだな。今までは大体……んんと、一割未満の魔力しかなかった。生活用品を扱えるぐらいだな」
「その魔導具エゲツねぇな…」
「魔導具研究所作でかなり高価だぜ。後登録した魔力の持ち主……俺しか操作できねぇからな」
アゼルの説明を受けて、へぇ、と感心の声が上がる。一応捕虜の拘束具なんだがな……高価な物を使っていいのだろうか。
ひょいと俺の作ったクッキーを摘んで食べるアゼルを横目に紅茶を飲んでいると、リューオが「そういえば」と声を上げた。
「俺ステータス見れるぜ。見てやろうか?許可してくんねェと無理だけどよ」
「あぁ、あの勇者特権か」
勇者であるリューオは、本来神殿に行かなければ見れない自分のステータスを好きな時に見る事ができる。
自分だけだと思っていたのだが、人のも見れるらしい。
とはいえ各ステータスはゲームみたいに数値化されていたりはしない。
ある程度何に適性があるのかくらいだな。
んじゃあ見るぜ、と声をかけられ、俺は頷いた。
勝手には見れないらしい。それもそうか、もし見れたら敵が丸裸だ。
「ステータス、と。お!スキル3つじゃねぇか。しかもレアだぜ!だから人間の王もテメェをこき使うことにしたんじゃね?」
「三つはいいのか。なんだか嬉しいぞ」
〝大河 勝流(シャル)
職業:異世界人
スキル適正:剣技・隠密・魔法陣〟
フォン、と電子音がして、映像のようなものが浮かび上がった。
リューオがほれ、と見やすいように画面を俺の方に向けてくれる。ん、昔と変わらないな。
ちなみにスキル適正は生まれつきの適正だ。
これがあるとその事柄が凄く伸び易い、と思ってほしい。
魔法陣なんかは適正がないと難しいものは殆ど使えないレベルだ。
隠密も含めこの二つはレアなスキルである。
……あぁ、隠密……そうか、国王はこれを持っていたから暗殺者にしようとしたわけか。
隠密スキルは鍛え上げれば触られるまで完全に気配を消せるので、夜闇にまぎれれば割と無双だ。そんな危ないスキルがノーマルなわけなく、珍しい。
「この文字がシャルの本当の名前なんだな」
隣のアゼルが俺の画面を一緒になって覗き込んで、ふむふむと興味深そうにする。
アゼルが見つめるのは名前欄の俺の本名だった。
日本語で大河 勝流と書いてあるが、読める人はこの世界で俺とリューオだけだろう。
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