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第98話
なんだか乗り気になったアゼルにリューオは呆れてケッと胡乱げな目を向けた。
おお、やっぱり自分のステータスが気になったのか。
どんなステータスでもアゼルはカッコいいけれどな。
サクサクとクッキーを食べる俺を抱きしめるアゼルは、期待の眼差しでチラチラと見つめてくる。しかし何の期待だろう。
うぅん……もしかして。
俺は指先で摘んだクッキーにはたと気付く。
「アゼル、あーん」
「ぅあっ、おっおう。あっぁ、あーん…!」
クッキーを食べさせて欲しいのかと思い手に取ったクッキーをそのまま差し出すと、アゼルはプルプルと震えながらも口を開いた。
正解だな。俺の察しもよくなっただろう?
食べたいなら自分で取ればいいのに甘えたな魔王だ。そこが可愛いんだけどな。
もぐもぐと咀嚼しながら俺の肩口に額をグリグリ押し付けて悶えるアゼルは、いつもの発作を起こしているだけだろう。
たまに何かが極まったらおかしくなる。
一連の流れを見ていたリューオがうげぇとアホを見る目でアゼルを見つめていた。
そうだろう可愛いだろう。あげないぞ。
「絶賛ユリスにキレられ中の俺にバカップルのイチャイチャを見せつけんじゃねぇよ、今の勇者様はリア充撲滅委員会だぜオラァ」
「ハンッ!見たくなけりゃ眼球抉ってろよ悪人面が。勇者ってより狂戦士だろテメェ」
「おーし表出ろや膾にしてやらァッ!」
「リューオ、ちなみになんで怒られたんだ?」
「……陸軍の仕事手伝った帰りに見かけたから抱きついたら〝お前のそういうデリカシーも気遣いもない野蛮な所が無理ッ!魔王様と大違いッ!恥を知りなよッ!〟って……何が嫌だったんだよわかんねェ……軍服が血みどろだったからか…?」
「「あー…」」
渋々とした説明を聞いて、俺とアゼルの声がシンクロした。
お察しといった声をユニゾンで聞いたリューオは、べコンッと落ち込んでクッキーを五枚程一気に頬張る。やけクッキーか。
リューオはその出来事以来近寄ろうとすると、蔑んだ目で睨まれ無言で逃げられるらしい。
ユリスはリューオが陸軍の仕事を手伝っている事を知らなかったみたいだ。
じっとしていることができない性分なのと、元々魔物を狩ったりしてお世話になった村を守っていたリューオは、魔王城でも陸軍に混ざって治安活動をしている。
魔王・魔族特攻の聖剣の使い手なリューオにかかれば、魔族でもない魔物の処理なんてお手の物なのだ。勇者の存在一人で人間国の魔物被害が減るのだから、そのぐらいの戦闘力はある。
他の軍魔に難グセつけられたらタイマンでぶちのめしているらしい。
リューオは本当に勇者なのだろうか……最早狩人だろう。
閑話休題。リューオは凄い人間だ。
ユリスに避けられ落ち込んでいるのが可哀そうで哀れみの視線を向けていると、居心地悪そうなリューオが「ほっとけ」と話を終わらせた。
なるほどな、それでアゼルの弱点を探そうとしていたわけだ。
負けず嫌いだから好きな子のアイドルに勝ちたいんだろう。
うんうん、大丈夫だぞ。
後で一緒にユリスの様子でも見に行こうな。
「ったくなにが魔王様と大違いだ、コイツだってどうせステータスゴリラみてェに決まってンだろ。男はみんな蛮族だわ。ロマンス小説みてェな男が現実にいるかよ、いると思ってるユリス可愛いかよ」
「蛮族か?ユリスも男だぞ」
「性別、ユリス」
なんだと。
そうだったのか……知らなかった。
ユリスは男でも女でもなくユリスなのか、だからあんなに小さくて柔らかくて愛らしいんだな。確かに可愛い。納得した。
アゼルのステータスを見ようとしながらリューオはバカを見る目で感心する俺を見た。
な、何も言ってないじゃないか!
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