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第126話
困った顔で見つめてみるが、犬が俺にコレをどうして欲しいのかわからない。
──まさか、読み聞かせてほしいのか?
それは流石に難しい。
恋愛や夜事情に不慣れな俺が、官能小説やその筋の方々の対談、各種性癖特集をどんな顔をして読めばいいんだろうか。
挿絵の数多の女体にムラムラはしないが、いたたまれないしちょっと照れるし、ガン見するものでもないだろう。
「ウァゥ」
黙る俺に犬はソファーに乗り上げ、急かすようにたしたしと前足で雑誌をつつく。
……やはり、読んで欲しいのか…?
「犬、聞くんだ。これは魔族のけしからん本なんだ。装丁が無地なのは中身を誤魔化す為で、お前の楽しめるような内容じゃないぞ?」
「…………」
「そ、そんな真剣に見つめられてもな……うぅん、仕方ない。読み聞かせはしないからな」
動物に弱い俺は、なにやら真剣そのものな面差しで見つめてくる犬に、ついに折れてしまった。
まぁ犬以外誰が見ているわけでもないからな……エロ本は現代の頃でも、見た事がない。
ん……初読が異世界産のファンタジックなエロ本で、しかも犬とだなんて変な感じだが、今日は変な日だからいいとしよう。
俺はパラ、と「え?全然普通のなんでもない冊子ですけど?なにか?」感を出している表紙を捲り、ダウトとツッコミつつ眺める。
パッと見はソファーで足を組んで優雅に読書し、傍らに子供の自転車くらいある大きな犬を侍らせる男な俺。
しかしその実、スケベな雑誌を見ているのだ。
やむを得ないとは言え心持ち微妙だな。冷静に考えると変態的な人だ。
「んん……悪魔っ子グラドルミミリィ……歌声喫茶デビリアの看板娘……幼女アイドルか……んんん……こっちは巨乳マーメイドの、シャウラさん……ピチピチの八十二歳……ピチピチとは…?」
「グルル…!」
「ん、こら、やめろ。このページは興味ないのか?」
「ウォンッ!」
グラビアページのピチピチ年齢に驚き、まじまじと見つめていると、唸る犬がページに前足を乗せて邪魔をしてきた。
なるほど、やはり人型には興味がないらしいな。
ポンポンと頭をなでてあげるとすぐにおとなしくなったので、先のページへと捲る。
うん、なでると嬉しいのかパタパタ尻尾を振り、ちゃんと静かになるのはいいこだ。可愛らしいな。
「おお、人狼だぞ。犬と違うが狼はどうだ?お前の好みか?」
「…………」
無言で首を左右に振られた。
好みじゃないようだ。
「ウァゥ、ウウ」
「?」
「クゥン……ウォンッ」
「うぅん?……俺の好みか?」
「アォンっ!」
俺を鼻先でつついてあうあうともごつく犬の言葉にまさかと思ったが、犬は元気に返事をして期待した眼差しで俺とエロ本を交互に見た。
そんなことが気になるのか。
人懐こい犬だ。
とはいえ俺はエロ本を読むのは初めてで、更に自慰もほとんどしなかった。
した時は勃ったから鎮めただけで、オカズもなしだ。そういう方向の自分の好みがわからない。
「うぅん。グラビアコーナーは特に……ええと、このへんは恋愛コラムか…、っ、すごいな魔族の性生活……」
「ワォン?」
「ほら、小料理屋のおかみさんのハマっているプレイは、目隠し緊縛だぞ犬。こっちの魔導具職人のエリックは、水魔の彼女に窒息プレイをしてもらうのがマイブームらしい。生きるか死ぬかだな」
「!、??」
「アハハ、そんな顔するな。俺にそんな趣味はない。ちょっと痛いのは好きだが、できれば普通に気持ちいいのがいいだろう?」
「……くぅん」
「うわ、なんだ?腕なんか噛んで……仕方ないな、そのぐらい優しく噛んでくれるなら、齧っても構わない」
ちょっと痛いのがいいといったからか、あぐあぐと犬が俺の腕を噛む。
甘噛みだから全く痛くないので、笑って好きにさせる事にした。
フフフ、誰も見ていないのをいい事に、だんだん面白くなってきたぞ。
それに無知のせいでアゼルとの夜がマンネリ化して、飽きられてはダメだ。
心が愛し合っていても飽きられるのは寂しいので、これで勉強しておこう。
死ぬまで共に夜を過ごすわけだしな。
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