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第127話
それから暫く後。
パラパラとページをめくって、読者コメントの夜の生活を驚いたり感心したりしながら、それなりに楽しく犬と読書をした。
ちなみに俺のアレは、ピクリとも反応していない。
えっちな絵が全面的に載っているページは、犬がすかさず前足ガードをするからだ。
「おぉ、通販コーナーまである。サキュバス協力制作の魔女の媚薬……いや媚薬はもうあるようなものだからな……オークの精力剤……精力剤…」
……欲しい、かもしれない。
いつも意識を失うか、起きていてもヘロヘロだから、俺は体力作りを頑張っている。
でももしかすると、こっちの衰えもあるのかもしれない。……いやいや、まだ大丈夫な筈だ。
異世界人は肉体が衰えないからな。大丈夫。
自分に言い聞かせつつ、俺は癒やしを求めて、隣でふすふすと雑誌をのぞき込んでいた犬に抱きつく。
「!」
「魔族の女性は積極的で扇情的だな……俺はアイツの好きなタイプもしたいプレイも知らないが、ちゃんと満足してくれているのだろうか」
うぅん、と悩ましい愚痴を犬に零すと、犬はわたわたと慌てて、グリグリ顔を押し付け励ましてくれた。
「ふふふ、ありがとう」
「アゥォ…!」
何故か懸命に頷く犬がかわいくて、にこにこと笑った。
よし、俺も何か積極的にやってみよう。
そもそも基本的に、されるがままの流され男なのがよろしくないな。
ここは密かにセックスの腕を磨いて、俺が押し倒すくらいじゃないと。何事も努力だ。
なでなでと犬の頭を撫でて、俺はさっきとは違う意気込みを新たに、参考書を読む気持ちでエロ本に向き直る。
「……ん?」
そして俺は通販コーナーでいいものを見つけ、これは、と目を輝かせた。
「見てくれ、こっそり練習するなら〝しっかり固定可能!潤滑油付き張型〟と〝魔力で振動?魔導バイブ〟のどっちがいいと思う?」
「グルルルッ!ウォンッ!グアオッ!」
ベシッポイっ
「!?なんで投げるんだ…!?」
これを使ってセックスの腕を磨こうと、通販コーナーのバイブとディルドを指差した俺。
だが突然手元からエロ本がなくなり、びっくりして目をパチパチさせた。
どっちの方が練習道具に良さそうか聞いただけなのに、牙をむき出して怒り出した犬が、素早い動きでエロ本に噛み付いて、ポイッと遠くに投げ捨てたのだ。
「あれじゃ練習にならないのか?もっとイボイボしたエグいやつの方がいいか?」
「ウウゥッガウッ!」
この世界まだプラスチックはないみたいで、素材が魔物の骨だったり木製や青銅、真鍮だから、あまり大きなのは怖いんだが…。
チョイスに不満があったのかと思ったのに、犬は怒りながらブンブン首を横に振る。
そしてなぜ場所を知っているのか、壁際の棚の上から紙とペンをくわえて戻ってきた。
犬はベタベタの紙をローテーブルに置いて、ペンをくわえ、不格好で読みにくいがちゃんとした文字を書く。
「〝浮気〟?」
「ガウ」
首を傾げて文字を読むと、そうだと言わんばかりに頷かれた。
「……無機物だぞ?」
「ウウゥ…!」
だめらしい。
俺はアゼルみたいな事を言い出す犬に、魔界共通なのかと浮気の定義を聞く事にした。
後でうっかりやらかし、アゼルが拗ねる可能性があるからな。俺は浮気なんて断固しないのに、仕方がない魔王様だ。
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