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第112話

「そう言えば、お前は男が好きなわけじゃないんだよね?」 「そうだな。男に触られようが乗られようが色の付いた気持ちにならない。ムラムラするのはアゼルだけだ」 「ムラムラ言うな」 しげしげと問われ素直に答えると、額にコツンとチョップを食らった。 ほっそりとした小さな手のチョップは痛くない。 男に、というのは少し語弊があるかもしれない。 俺は昔から性的な事に疎く、自慰も殆どしなかった。 一度だけできた彼女は今程必死に渇望してはいなかったかもしれないが、確かに好きだったのでそういう気持ちにもなったし、セックスもした。 種類はともあれ好きにならないとそんな気持ちにならないのかもしれない。触れられて嫌悪感がないぐらいには好意がないと、女性でも羞恥はあるがなんともない。 ……まぁ、その彼女にはやり方を調べてここは大丈夫か?痛くないか?気持ちいいか?と丁寧にし過ぎて「知るかそれ所じゃないわよ!」とグーで殴られた。 自分でも欠点だと自覚があるのだが真面目すぎるのだ。 直球全投、変化球、牽制なし、盗塁にも気付かない。……盗塁にも気付かない、うぅ…。 流石にその辺の話は黒歴史すぎて言えない。 突然ズゥンと闇を背負いつつ遠い眼差しで乾いた笑みを浮かべた俺をユリスは訝しんだが触れないでいてくれた。ありがとう。 空気を読む出来るショタっ子ユリスはやけ飲みじゃなく優雅に紅茶を飲み、不思議そうに好奇心をにじませて首を傾げる。 「それじゃあなんで最初から抱かれる側志望だったわけ?お前の性格的に『大丈夫だ、傷つけないように頑張るから身を任せてくれ』とか言いそうなのに」 「……俺の声マネ似ているな……そんなふうに見えているのか?」 「シャルの癖に包容発言多めだからね。大丈夫だ、任せろ、安心して欲しい、可愛いな、よしよし、おいで、その辺フルコース」 「気が付かなかった」 初めて自分の口癖、なのか?よくわからないがそんなものを知ったぞ。 やたら声真似が似ているのが気になる。声帯の神秘だ。 それはともあれ初めから受け身のつもりで迫っていたのは何故かと言う話だったな。 答えは簡単。 「アゼルが男だったからだな」 男のアゼルは女性が……かわいい子が好きだろうと思った。女性の代わりじゃないがそれを目指した方がまだ見て貰えるんじゃないか、という打算だ。 アゼルはきっとあの容姿に魔王だ、経験豊富に決まっている。俺は女性だけで、しかも一人だけ。男は一度もない。受け手に回った方がお互い身体の相性がイイ気がした。 それに、ユリスが恋敵だったからな。 同じ土俵に立とうと勝手に思っていた気もする。 「だから本来俺はしたがりでアゼルも可愛く見えるから、抱けと言われれば抱けるぞ」 「ふぅん!なるほどね。だから男受けする可愛いを目指しているってわけ。お前は魔王様を抱けるけれど、魔王様にあわせているから抱きたくはならないってコトね」 俺の説明に、ユリスは意外とまともな理由があると感心して頷いた。 何気ない最後の言葉に、俺は紅茶を飲みながら特に何も考えずに返事をする。 「いや、抱きたいけどな」 ガタンッ 途端、扉の向こうで小さくなにかがぶつかる音がしたが、俺もユリスも気が付かなかった。 ━━━━━━━━━━━━━━━ リバ展開ではないですぞ(安心安全宣言)

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