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第114話(sideアゼル)
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午後にずれ込んだ玉座での報告会と、貴族連中との会合を終えて廊下を歩いている時だ。
窓の外でシャルがユリスに引っ張られ、魔導研究所に行くのが見えた。
元々ユリスはシャルを嫌っていたらしい。
ユリスは俺を慕っているから俺がシャルを特別に扱うのが気に食わなかったみたいだ、とワドラーが教えてくれて知った事だ。
だが俺とシャルのあの日……恋を自覚して想いを遂げた次の日に嫌がらせをした事を謝ったユリスを、シャルは許し、更に殴ってもいいと言った。
俺は色んな意味で初めてを終えた朝が照れ臭すぎて隅に隠れていたんだが、話は聞いていたわけだ。そこ、情けないとか言うな。
あの日のシャルは
〝ユリスの先手で恋を自覚して今こうなったから感謝しているが、恋敵にお礼を言われるのはユリスのプライドに触るので何も言わないし、失恋の鬱憤晴らしに殴ってもいい〟
と言ってユリスに怒られていた。
そうやって遺恨を残しそうな複雑な事や、仲違いが起こりそうな事はなるべく先にきちんとありのまま話して、更に拳で手打ちを提案する男気あるシャルには惚れるしかなかったぜ。
ユリスもそんなシャルに絆されたのか諦めたのか呆れたのか、恐らく全てだが、ユリスとシャルはあれ以来仲がいい。
海軍魔導研究所所員から魔王城魔導研究所所員に栄転したユリスは、プリプリ文句を言いながらも世話を焼いてシャルに構いに行っている。
多分あいつらはトモダチって奴。
お気に入りなんだろう。
俺は手を繋いで仲良く歩いている(引きずっているが)ユリスとシャルを機嫌よく眺めて、執務室へ足を進めた。
聞いて驚けよ?
この俺、ユリスには燃え盛る嫉妬心が反応しねぇんだぜ。
まぁ基本大事にカテゴライズしてる奴らには比較的 なんとも思わないしな。……自分が仕事してたりして構いに行けない時は、少しぐらい殺意が湧くが。
ユリスに特に気を許すのは、城下町の子供みたいな気持ちなのと、俺を崇拝している事と、なんというか、ほら……子猫と斑ネズミだから。
女二人が手ぇ繋いでんの見てなんとも思わねえと言うか。万が一にもどうこうされる事がないって勘でわかってると言うか。
要するに、受け手と受け手だろ。
可愛いだけだ。
シャルとユリスが並んでもパッと見〝近所の面倒見が良いが危なっかしいお兄さんと、おませで出来た弟っぽい子供〟にしか見えない。
そののほほんな光景も、俺とクソ勇者が混ざると一気にカモにされる哀れな市民になるが……二人揃えば俺にとっては愛でるべき生き物になるのだ。
俺は到着した執務室で仕事を片付け始めつつ、目から癒しを補給する。
後でこっそり遊びに行こうか、なんて悪戯心を芽生えさせてクククと笑った。
──のだが。
前述の通り悪戯心を持って、そっと魔導研究所のユリスの研究室を訪れた結果。
まだるっこしい説明は省くが、俺は死んだ。
質がいいのにゴチャゴチャした変な柄のパッションピンクのソファーに顔を埋めながら、男としての自分が終わった事を噛みしめる現在。
研究所の色んな所に足の小指やら額やらスネやらぶつけて、シードラゴンの形の踏みつけるとピヨピヨ鳴くオモチャをうっかり鳴らし、最終的に研究所の扉を門ごと破壊して逃げた俺。
満身創痍の俺の頭の中をぐるぐる回っている言葉達は、今まで知らなかった衝撃の事実だ。
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