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第130話
そうだな……仮に俺が誰も好きじゃなくて、出会ったら恋をするかもしれない容姿と中身ってわけだろう?
まぁ、聞かれるのは二度目だし、ここにはアゼルもいないから、ちょっと思う様答えようかな。
「馬鹿みたいな惚気話をしようか。アゼルには秘密にしてくれよ?」
「クックック」
挑発的なニヤリとした笑みを浮かべた俺の言葉に、ガドが口元に手をやって愉快げに笑う。
「愛関係なくなら、俺は本当はしたがりだから、女性の方が好きだと思う。守りたくなるか弱い存在に弱いとも思う」
「お前らしいなァ」
「でも、俺は好みでない筈の、アゼルが好きだ。アイツじゃないと、好きじゃない。んん、不思議だな?ガド」
「惚気だな。でもまだ馬鹿さが足りなくねえかぁ」
ガドはニマニマとなぜか俺の後ろの犬を見つめて、な?と言う。ガドに向き直っている俺には、犬の姿は見えない。
俺はソファーの背もたれにトンと肩を預け、クククと喉を鳴らし、数カ月前の出来事を思い出しながら語る。
「以前リューオに、俺がアゼルを唯一と愛しているのはすりこみではないか?と言われた事がある。仲間もいないまま魔界にやってきた俺が、最初に優しくされた人だから」
「へぇ?」
「誰でもいいんじゃないかと。それこそか弱い少女にでも一緒にいようと言われていたら、即落ちだっただろう。否定はしきれない」
「…………」
「うひひ、そう気落ちすんなよ魔、んんマオ〜」
「……クゥン……」
後ろからしょんぼりとした声が聞こえて、振り向く。
俺はヨイショと座り直し、耳をぺたりと倒した犬を撫でた。
お前の名前はマオと言うのか。
「おいで」と言うと、マオは俺の膝の上に大きな身体を寝そべらせ、少しだけのしかかる。
そんなマオのふかふかの身体を撫でつつ、俺はちっちっち、と人差し指を立ててコミカルに左右に振った。
「寂しくて悲しい時に優しくされたから好きになった、そういう理由かもしれない。でもな、優しくしてくれたのはアゼルなんだ。他の誰もしてくれなかった事は、アイツが初めて俺にしてくれたんだ」
他の誰かがやったら俺はその人を好きになっただろうって、それはそうだが他の誰かなんていなかったじゃないか。
きっかけに過ぎないそんな経緯も、この世でアゼルだけがもつ経緯だ。
それにアゼルは、俺の事をあれからずっと大事にしてくれている。
釣った魚に餌を、と言うあれだ。
気まぐれやなりゆきではないからこそ、俺はアイツを愛してしまい、それを本物にできたのだろう。
「以上の理由から、他に恋する事はないし、どうしたって愛情込なので……俺の好みのタイプはアゼルです。ご清聴ありがとうだな」
「…………」
「アハハッ最高ォ〜…!」
語り終わった俺をガドが笑って震え、マオは俺の太ももの間に顔を埋めて黙り込んだ。
尻尾が尋常じゃなくふりしきっている。
ソファーをベシベシ叩く音が、ベベべとハイテンポ極まりない。
「ちなみに性癖は?」
「ん?ん……ちょっと痛くてちょっと恥ずかしいのが、結構好きだ」
──後、騎乗位の練習がしたい。
少し考えてそのまま告げると、クツクツとした笑いが爆笑に進化した。
失礼なやつだな。
脇腹に軽くポスンとパンチしたが一向に効いた様子がなかったのが残念だ。
ガドに今更羞恥心もあまり発動しないから、多少のえっちな話もできる。大人だからな。大人はえっちなのだ。許してくれ。
こうして少し桃色トークを二人と一匹で繰り広げながら、アゼルが帰ってくるのを待つ俺たちであった。
「しかしアゼル、帰りが遅いな」
「くぅん…!」
「クックック…!」
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