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第137話※微
シャルはぐぐ、と焦れったい様子で自分の髪を僅かに撫でて黙るアゼルを置いて、数日前の実践を思い出す。
あの時は咥えればいいんだろうな、と思って初めから口の中いっぱいに頬張ってみたが、雰囲気作りをした方がより官能的だと学んだ。
唇を舐めて湿らせ、舌を伸ばしてペロリと先端を舐める。
それからチュ、チュ、とわざと音を立てて何度も亀頭にキスをした。
時折裏筋を舌先で探ると、手の中のものはあっさり元気になってくる。
今日はまだ咥えてないのに、アゼルは感度がいいのだろうか。
動くなと言う言葉を律儀に守って、ウズウズとしつつも手を出すのを我慢している魔王。
それを上目遣いに見ながらクスリと笑うと、吐息がかかったのが擽ったかったのか、アゼルは掴んだままの髪をほんの少しクッと引いた。
「ん……」
伸ばした舌先が円を描くように鈴口の周りをなぞり、ようやく肉感的な唇が先端を覆うように咥える。
口内で全体を嬲ると苦味のある液体が滲んで、舌が溺れそうだ。
ちゅる、と吸い上げるとその分溢れる淫液に、嫌悪感はなかった。
寧ろ感じてくれている事に興奮を覚える自分がいる。
唾液とそれが混ざったものをゴクリと飲み込んで、少し唇を緩めつつ、残りの粘液は竿を伝わせ指に預けた。
「……動きたい」
先端を口の中で、残りをヌメリを得た手で、ゆっくりとこすりあげ愛撫していると、頭上で切実な声が聞こえる。
シャルは返事をする為に咥えていたものをジュルリと吸い上げ、飲み込んだ。
ビクッと腰が震えたのを面白いと思いつつ、口を離してペロリと唇を舐める。
「ん、下手くそだったか?」
「くっ……逆だぜ、上達早すぎだろ…!俺も触りたい。交代しろ、舐める」
「それじゃあいつもと一緒だ。それに今日は飲める気がする」
「飲むな馬鹿野郎」
グルルと唸るアゼルは、身を任せてくれと言わんばかりに見つめるシャルを、紅潮した顔で睨みつける。
前回は驚いて口を離したので飲み込めなかったが、リベンジする気満々なのだ。
アゼルからすると、流石にそんな事はさせられないとなるらしい。
後、自分は何もしていないのに奉仕させて、挙句口でイかされるなんて恥ずかしいと。
ズリッ
「おわっ」
ムラムラとシャルの言いつけ、我慢の間で揺れるアゼルを、シャルは足を引っ張り引き寄せた。
ふかふかの枕を背にもたれかかっていたのに引っ張られてずり落ちる身体が、シーツを乱して寝そべる。
アゼルが文句をつけるより先に、色気もへったくれもなく残っていた下衣と下着を脱いだシャルが、躊躇なく腰にまたがった。
「ちょ、ま、まてっ」
当たっている。
とてもダイレクトに当たっている。
引き締まったハリのある太ももがアゼルの腰を挟み、小ぶりの尻が上衣を捲くられた腹筋に乗っている。
アゼルは、動くなと言っておきながら恥じらいもなく肌を合わせてくるこの男が、自分の理性を試しているのかと真剣に疑った。
今すぐこのまま手を伸ばして腰を抱き、腿をなでて、中に指を入れたい衝動をどうにか押さえる。
それを尻目に、シャルは無地の雑誌を取り出して真剣にページを見つめだした。
雑誌のページには、男を躾ける夜の主導権の握り方なるものが書かれているのだが……アゼルの知るところではない。
番長は、一方的な口淫が物足りなさそうなアゼルに、他のこともやってみようと思っただけなのだ。
「シャル、も……いいだろ?」
ソワソワと落ち着かないアゼルが、シーツの上で所在なさげに手を動かしてシャルを見つめる。
シャルは雑誌をそっと傍において、跨ったまま上体を倒し、その子犬のような男の横に手をついた。
ふかふかの枕に両手が沈んで、息がかかるほど顔を近づける。
鼻先を触れ合わせて、唇の端にキス。
それから上唇、鼻の頭、顎の先端。
「っ…」
なかなか本命に口付けてくれないことに焦らされ首を動かそうとするアゼルに、ふっと身を引く。
──ええと、雑誌によると〝たっぷり焦らしてあげると、満たされた時がよりたまらない〟だったな。
手順を思い出し、アゼルの服のボタンを外しながら真っ赤に染まった耳朶を舐める。
焦らす、焦らす……我慢か。よし。
「上手にマテができたら、後でご褒美をあげるからな」
祖母の家の犬を思い出して口にしただけの言葉だが、夜色の毛並みの犬にも、効果は覿面だった。
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