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第145話

そうして俺の三倍食べるアゼルの三倍の茄子を、唸るアゼルにまぁまぁと言いながら追加で食べさせ終わる。 頭を抱えていても「ほら、あーん」と言うと口を開けるものだから、楽しくなってきた所だった。 「んぐ、……た、例えばだぜ?」 「ん?」 「行くなと言ったら?」 行くなと言ったら。 ……それは行かないことにするしかないな。 別に反対を押し切って悲しませてまで行こうとは思わない。だがアウェイの魔界にあって俺が手を引いて歩くデートはなかなか難しい。 ちょっと残念な気持ちではあったが、しょんぼりとしつつも俺はすぐに答えた。 「行かないぞ」 「うぁ……わかった、行ってこい……!」 ん?なぜか許可が出た。 アゼルはしょんぼりしていた俺にさぱっとゴーを言い渡し、ぐぐぐと複雑そうに睨んでいる。 かなり不本意そうだが。 俺は決め手はわからないが悩んだ末許可してくれたアゼルが、狭小住宅の心を頑張ってほんの少し広げたのだと察して嬉しくなった。 自分のテリトリーである魔王城から出すのを非常に嫌がっていたのに、すごい進歩だ。 「ありがとう。日が暮れる前には戻るからな」 「当たり前だ。いいか?知らない人についていくなよ。変なものは食べるんじゃねえぜ。それから、ほら。いくらか渡すから好きに使え。後で何に使ったか報告しろよ」 「お母さん、財布ごと渡すのはよしてくれ」 幼児に言い聞かせるように真剣に下見のルールを言いつけながら、召喚魔法で取り出した財布をお小遣い感覚で差し出したアゼルへ、胸の前でバツを作って拒否した。 首を傾げるな。 おかしいのはその金銭感覚だ。 ちょっと擁護するなら、アゼルは魔王になってからお金を持ち出したので、自分のお金を使うということがあまりなかった。 そのせいかポケットマネーが膨大で、一般的な魔族の収入も物価も知っているのに、自分の財産はどんぶり勘定。セレブ買いが基本なのだ。 なんでも受け入れると思われがちな俺だが、これだけは断固拒否している。 節約がな……下手くそなんだ。 使うか使わないかで、欲しいものは全てというタイプだからな。 ちなみに魔界の財布は現代で言う中世かその後くらいの物で、巾着のような袋にまとめておくのが普通である。バラけなければいいという感覚らしい。 金の刺繍が入ったA4サイズの濃紺の布袋にパンパンの金貨を渡されれば、そりゃあこのアンポンタン!とデコピンの一つも御見舞したくなるものだろう。 大体金貨一枚一万円だと思ってほしい。 ぱっと見積って百万は超えている。これは野良魔族が切り詰めれば一年はゆうに暮らせる金額だ。 「くっ、このアンポンタンめ」ビシッ 「なんで怒られた俺」 やはりデコピンを御見舞せねばと額に指をピシッと当てたが、アゼルはノーダメージでなぜ怒られたのかもよくわかっていなかった。 悔しくなんかないぞ。 いいんだ、俺のデコピンが魔族に通じた試しがない。……今度から腕立て伏せを変えて、指立て伏せにするか。

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