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第146話

「俺にも使えるお金がいくらかあるから大丈夫だ。それになにか買いに行くわけじゃない」 「あって困るもんじゃねぇだろ?俺だってその……まあ普段どこかへ連れて行ってやれねえし、お前は物を欲しがらねぇから、そういうあれだ」 「うぅん……」 アゼルはむむ、と神妙な顔で再度差し出してくる。 どうやらアゼルなりに考えあってのことみたいだ。 城に缶詰にしているのを気にはしていたのか。俺は全く気にしてないんだが。 しかし理由あってそう言われると完全拒否するのはもうしわけないな。 俺は腕を組んで悩んでから、指を一本立てた。 「それじゃあ一枚だけもらおうかな。お土産を買ってくる」 「うし、土産代と飯代とその他」 「そうか……アゼル、食堂の日替わりが一食いくらか知っているか?」 「銅貨八枚だな」 「百食食べてもお釣りが来るだろうこのアンポンタン」 「なんで俺また怒られたんだ」 俺のデコピンはまったく攻撃力がなかったが、結局断固お小遣いを拒否することに成功した。 なんで金貨を手づかみで差し出すんだ。 ♢ 翌日。 俺は白いチュニックにカーキのベスト、革のベルトに麻のズボンとショートブーツでグレーのマントを羽織って、コソコソと城壁の向こうへやってきた。 要塞レベルで高い壁をだな、魔法陣と隠密を駆使して這い上がったんだ。 背面が崖地帯の魔王城なので前目のところで待ち合わせている。 俺が待ち合わせ場所に行くと、リューオが平軍魔の軍服の上着を脱いだ上に、フード付きのポンチョを羽織った様相で既に待機していた。 「悪い、待たせたな」 「別に、あんまかわんねぇよ」 声をかけるとリューオは気軽に片手を上げて機嫌よくニィっと笑う。 どうやって出てきたのか聞くと、休みだけど陸軍の巡視隊にまざってきたらしい。だから軍服なのか。 「リューオ、変装グッズをもらってきたんだ。これを飲んでくれ」 俺はいそいそと召喚魔法で小瓶に入った薬を差し出した。 透明な液体の薬は、諜報部隊御用達の鬼族化薬だ。 昨日俺がアゼルに打ち明けた後、アゼルはいくら魔王がいいつけていても新しく来た知らない魔族はいるだろうし人間が街に行ってばれるとまずいので、ライゼンさんに頼んで諜報部隊の薬を貰ってきてくれた。 前の子供のお遊びで一時間だけ耳と尻尾が生えるなんちゃって獣人化薬とは違い、見た目だけならほぼ完璧に鬼族になれる本格的な代物だ。効果は一日。 ただデメリットは鬼族といってもたくさん種族がある中で、体質にあった種族にしかなれないようだ。 アンデット族にもグールやレイスなどいろいろいるように、鬼族もいろいろいる。 すべてが均一で確実な効果がないと軍事的には微妙な価値になってしまうのだろう。

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