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第147話

リューオは俺の手から小瓶を受取り、説明を聞いてふぅんと興味深そうにチャプチャプと薬を揺らす。 それからなんの躊躇もなくグイッと一気に飲み干した。 悪いものではないんだが、ちょっとも警戒しないのか。相変わらず豪胆だ。 だが、すぐにべーっと舌を出して苦虫を二、三匹噛みつぶしたように顔をしかめた。 「グぁッ!?うぇっマッズゥ……ッ!例えるならうっかり仕舞い忘れて一日常温放置した開封済みの豆乳みたいなエグみだぞこれェ……ッ!」 「そうなのか、俺は放置した豆乳を飲んだことがないから想像つかないな……」 「例えだっつってんだろ!って、うわ、なんか痒い、?いやなんかキモい……?」 薬を飲んだ後口元をゴシゴシ拭い、憤慨していたリューオが、身体をペタペタ触って首を傾げ始める。 俺が驚いて目をぱちぱちさせている間に、リューオの額から二本の角がメキメキ生え始めた。 親指くらいの角だが、痛くないのか……? そして耳がにゅっと伸びて尖り、痒い痒いと文句を言うリューオの口から犬歯にしては大きな牙が伸びてきた。アゼルの牙よりずっと大きく唇からはみ出ている。 更にシャツの隙間から覗く肌にまとわりつくように浮かび上がった黒い入れ墨のような文様。 髪は赤くなりツンツンしたままだが伸びている。 爪も伸び、ただでさえ凶悪な顔つきのヤンキーなリューオがヤのつく職業人のような厳つさを手に入れた。 これは……所謂オーガだな。 もともと大きな身長がさらに一回り大きくなった気もする。服がパツパツしなくてよかったな。 俺は痒みが収まってキョロキョロするリューオに、拍手を送った。 「すごいな……おめでとうリューオ、どこからどう見てもオーガだ。ナイス変装だぞ」 「いや見えねぇしまじで大丈夫かこれ?後でもとに戻るのかよ」 「大丈夫だ。多分」 「多分っつったお前っ!?」 うう、だって俺も使うのははじめてだからな。保証はできない。 そう言うと、リューオは俺の手から薬を奪って「異世界まで一緒に来たんだ、人間やめる時はテメェも一緒だぜ」と悪役そのものの形相で、俺の口に小瓶を突っ込んだ。 薬の味は、非常にまずかった。 そうか、これが開封済みの常温放置した豆乳の味か……勉強になった。 「ん、んん、あっ痒い、たしかに痒い」 「うわ、ブックッハハハッ!マジでなんか生えてきてる、見てる分には面白えなァ〜」 「痒い」 小さい虫が皮膚の下をはい回っているようなかゆみに困った顔でもぞもぞする俺を、リューオは指差して愉快そうに笑う。 なんてやつだ。 鬼らしいといえば鬼らしい、のか?

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