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第148話
そうして、痒みが収まる頃には俺もすっかり鬼の姿になっていた。
額には細く長い角が二本。爪と牙はリューオほど大きくないが鋭くなり、髪はやや伸びたが色は変わらなかった。
耳も少し尖ったくらいで、後は手の甲に目のような紋章が現れた。体格も変わらない。
んんと、オーガではないな……ちょっとよくわからないぞ。
自分では見れないので俺の変化を説明してくれたリューオは、腕を組んで首を傾げる。
「幽鬼……かァ?」
「や、わからん。俺はオーガとはあるが、こういう特徴がある魔物とは戦ったことがない。魔族もない」
「俺ァ戦った後のやつのこと、あんま覚えてねぇんだよなァ……俺が負けたら村人が終わるから、兎に角勝てばいいし……ンー多分幽鬼……なんか村で殺った気がすンだよな」
そんな感じでいいのか勇者。
とりあえず俺は暫定幽鬼と言うことで、もし街で種族の話をすることになったらそう答えることに決めた。
そしてここからが本題だ。
魔族の街で人身売買寸前だった俺から大事な注意事項。
「リューオ、怪我はするなよ。異世界人は血が美味いから、鼻のいい魔族ならすぐに嗅ぎつける。もしそれで人間だとバレたら、味見がてら肩から腕をもがれかけるんだ」
「は?」
きょとんとするリューオに、俺は真剣に言い聞かせた。
見た目は完璧に鬼族になれるこの薬、中身は変えられないので皮膚の下の血肉は人間のままだ。
怪我をして血を流すと、近くに吸血系の魔族がいれば屋台飯感覚でガブリとやられてしまう可能性もある。
勿論そこから人間だとバレれば人身売買リターンズで、街中で剣を振り回すハメになることうけあいだ。
それではデートの下見どころじゃないし、俺はアゼルになんて報告すればイイのか。
「人間バレしてちょっと齧られそうになったから、乱闘して逃げ帰ってきた城下町へ、デートに行こうか」とは言えないだろう?
仮に言ったとしたらアゼルのことだ、そのかじりに来た魔族達を殴りかねない。
流石に殺したりしないだろうが、拳二つと鎌が四つで、六人ぐらいは同時に一発御見舞できる。
そう説明すると、リューオは頷いたが若干微妙な表情をした。
「つーかやけに真剣だけどよ……それ実体験じゃねえだろうな」
「ん?実体験だな。ちょっと齧られて売り飛ばされそうになった所を、片想い中のアゼルに助けてもらった」
「実体験かよッ!」
俺は催促されて実体験した経緯を詳しく話す。
すると話を聞いたリューオにクワッ!とオーガ状態で幼児を叱るような怒り方をされ、俺はアゼルに言われたことを重ねてリューオにも言われてしまった。
くっ、知らない人にはついていかないし、変なものも食べないと言っているだろう……!
いくつだと思っているんだ。実年齢は三十路超えのおじさんだ俺は。リューオより年上だぞ。
「テメェそれでよく現代で生きてたなァオイ!ゼッテェ借金まみれとか、詐欺にひっかかって生きてただろ!」
「あのな、あまり社会人を見くびるな。そんなものにはあってないぞ。変な壺も買っていない。オレオレ詐欺にもあってない」
「いや、オレオレ詐欺は子供がいる家庭にしかかかってこねぇよアホか!お前はそれより当たり屋にクリーニング代とか弁償しろとか言われるタイプだろ」
「?汚したらクリーニング代は払う。壊したら弁償するぞ。当たり前じゃないか。詐欺じゃない」
「ちなみに品物と金額は?」
「ドロが跳ねて取れなくなったらしい高級革靴五万と、俺がぶつかったせいで溢したコーヒーがついたシャツのクリーニング三万だな。他にはええと……」
「もういい、お前は金を請求されたら払う前に魔王に全部聞け。俺には荷が重いわッ!」
リューオは現代に生まれてどんな家庭環境で育ったらこんな馬鹿が出来上がるんだと、肩を怒らせ、さっさと街へ向かって歩きだしてしまった。
いや、普通に生まれて普通に育って、普通に異世界トリップして今の俺が出来上がっただけなんだが……。
俺はオロオロしつつも、とりあえず今後はアゼルにお伺いをたててから人にお金を渡そうと決めてリューオを追いかけた。
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