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第149話(sideアゼル)
『残念ながら俺は一発殴るじゃなくて、全員の腕をもぐぜ』
お散歩形態、小型クドラキオン姿の俺は、木の影から街へ向かって歩いていくシャルとリューオを追いかけつつ、さっきの話に一人返事を返す。
シャルを捕まえて齧ろうとするゲス共の腕なんて、こう、チョンと。
身体とお別れ必須だ。
俺はコソコソついて行きながら、ぱっと見は鬼族の二人組に化けたシャル達が街へ進むのを、距離を取って見つめた。
あ?何をしてるのかって?
見たらわかるじゃねえか。
そもそもゲス共が近づかねぇように見守ってるに決まってんだろ。
見えない誰かに胸を張る。
安心安全の魔王セキュリティだぜ。
昨日シャルに出かける旨を知らされた俺は、本当は大反対をしたかった。
だが、シャルは前に俺が余裕がなく焦って勘違いして拗れた出来事を、ちゃんと覚えていたのだろう。
もう勘違いしないよう、あけすけに経緯と目的を話して許可を求めたシャルに、頭ごなしに駄目だと言うのは可哀想だと思った。
というか、本当は行くなと言おうとしたんだが、しょぼくれて「行かない」って言うシャルに罪悪感をあれされて……ッ!
結果、過去の失敗もあって、許可を出すことにしたわけだ。
俺は昨日の夜のうちにライゼンの所へ行って変装用の鬼族化薬を貰い、今日の休みを取った。
書類仕事はまたフルスロットルでやるからいいが、多少会議と謁見がごちゃついたのでライゼンに小言をくらった。
そこはまぁ温厚な俺のあまり使わない方法、作戦名力で物を言わせるを発動させてまかり通したぜ。
王様だしな、魔族だしな。
そして休みなのにしれっと朝からシャルにおはようとキスと、行ってらっしゃいを貰い、出勤。
執務室へ行くフリをして待ち合わせ場所に先行待機。
周囲の反応でバレないように、念の為に姿も変えた。
待ち合わせ場所から街までのルートにいた、危険そうな魔物を先に細切れにして焼き尽くしておく気遣いも、忘れねえ。
フフン。できる男は気付かれないように、できるだけ快適なお出かけを守るもんだ。
コソコソと話に聞き耳立てながらなるべく気配を消して後をつける俺。
それを世間一般では〝ストーカー〟と呼ぶらしいが、そんな事には気づかない俺だった。
『くぅぅ……っしかし幽鬼バージョンのシャルもかわいいぜ……!』
コソコソ見守りつつ、尻尾をブンブン振っていつもと一味違うテイストになったシャルを目に焼き付ける。
幽鬼ってえのは死霊が力を持って鬼になった魔物で、本来はアンデッド系を主食にする、所謂幽霊みたいな見た目の鬼だ。
魔物だと厳つくて不気味で、一部は断固拒否レベルで嫌がる。魔族だとあんな感じで黒い髪に細い角が生えた姿をしている。
擬態はすこぶるうまくいったらしい。
と言うか、普段よりちょっとクールだぞ……!
目つきがやや鋭い……!
俺を殺しにかかってた時みたいでアガる……!
内心で悶え、いい仕事しやがるな薬!と親指を立ててウキウキと街までの道を歩いた。
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