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第153話(sideアゼル)
手を繋いでデート(に見えるが断固違う)。
それは俺が視察と称して理由をこじつけなければ出来なかった、高難易度クエストだ。
初城下町に浮かれた二人が浮かれたまま、逸れないようにと勢いでやってるんだろう。
それはわかる。わかるが!
未だに休みの日はどこかへデートへ行こう、の一言が言えずじまいのまま、視察がなければお出かけも誘えない俺にとっては、悔しさと独占欲が満載の案件である。
『あぁ、嫉妬の炎が熱いぜ』
あまりの衝撃にバタンと倒れた俺は、満身創痍でよろりと立ち上がる。
めげずに事故チューとやらが発生しないよう追いかける為、身体をブルブル振って毛皮についた埃をふりはらった。
すぐに食い物の屋台へ行きたがるリューオと、雑貨の屋台へ行きたがるシャルは、だいたいシャルが折れる形で屋台市を満喫する。
そして俺の牙が何度か剥き出しになりそうな楽しげなやり取りの後、二人は店舗が立ち並ぶ大通りを散策していた。
大通りともなると巨人や人っぽくない魔族も増えるし、交通に馬車が使われるので市より人混みはない。
俺は道らしい道に出たことにより、繋がれっぱなしの手が離れたことに小躍りして喜んだ。
許されることなら割って入って俺がしっかりと手をつなぎたかったけどな。
シャルに内緒で着けてきた俺は、魔王城で仕事をしていることになっているので我慢した。
褒めてくれてもいいんだぜ?
けれど、人混みを抜けると俺の姿は若干目立つ。
かと言って人型に戻ると、バレてしまうかもしれない。
悩んだ俺は、露店で獣人用の帽子と、蝶ネクタイを買うことにした。
小さめのワインレッドのシルクハットは耳を出す穴が空いていて、窓に写った自分の姿はなかなか良いものだ。
白のボーダーが入った蝶ネクタイも、味があって様になっている。
ふふん、これで放し飼いの狼から身なりのいい狼になっただろう。街に紛れても大丈夫なはず。
コソコソするのをやめてあえて胸を張って堂々と後をつけると、案の定周りはあまり気にしなかった。
小さい魔族が「ワンちゃん!」と言って来たが母親らしいものに「よその子だからだめよ」と窘められる。
その他の子供も俺にじゃれつくこともなく、俺はノーマルに紛れられていた。
「お!ここなんてどうだ?こっちにはまだ映画なんかねぇしな」
「奇術館か……マジックショーだな。いいと思う」
『まじっくしょー?』
二人が歩みを止めた舘の前で聞こえた、聞きなれない言葉に首を傾げる。
魔界の奇術館は、だいたい生活と戦闘に使う魔法を人に見せる為に使う変わった舘のことだ。
威力を抑えたり光を強めたり、魔力制御の技術が必要で、専門の奇術師がいる。
なんにせよどこまでもついて行くべきだ。
チケットを二枚買って入っていく二人に遅れないように、俺はいそいそと走って中に入ろうとした。
『狼一枚』
「んん?コイツ、流暢に喋るなぁ……でもいくら賢くても、魔物は入れん。飼い主同伴でもだめだぜ〜」
『なっ、なに!?』
ここに来て俺は、決まり事と言う壁にぶちあたった。
冗談じゃねえ。
こんな薄暗い舘の中で魔族がひしめき、素晴らしい見世物を見ようなんて……いかがわしすぎるだろ!
絶対イチャつくに決まってるぜ!
桃色展開が始まったらどうすんだ!?
もしくはうっかり薄暗くて躓いてそのへんのやつと、こう、悪いそんなつもりじゃ、いや俺こそ、みたいな展開になったら誰がそいつを切り刻むんだ。俺しかいねぇだろ。
『か、金はある、なんとかしてくれ!俺は事故が起こらねぇように見守らねぇとだめなんだよ!』
「だめなもんはだめさね。オーナーがおっかねぇんだわ」
『ぐぬぬ……じゃあ、俺も飛び入り参加だ!パフォーマーとしてならいいだろ?』
「うぅん、それなら一回銀貨五枚の参加費がいるけどいいかい?」
『よしきた』
なんとか食い下がった俺は、なし崩し的に一般の演者として潜入することに成功した。
ちなみに俺は奇術魔法はやったことがねぇ。
まぁ余裕だろ。魔法で苦労したことねぇからな。魔王だから。
うまい具合に変装もしてるし──ここは〝狼奇術師マオ〟として尾行を続けるぜ!
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