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第154話(sideゼオ)
その日──陸軍長補佐官ゼオルグッド・トードは、街に繰り出し、今週の休日を満喫していた。
静けさのあるさっぱりとした性格の彼だがインドアではなく、寧ろアクティブで一人でなんでもやってしまうタイプである。
好奇心も旺盛で人にどう思われようが特に気にしないゴーイングマイ・ウェイ。
現代で言うと一人で夢の国を二泊三日のプランで満喫し、耳まで付けてあのネズミとツーショットを撮るような男だ。
ゼオは巷で噂だったジャンクフード店で胃に重たい朝食を取り終えると、あれこれとやりたいことを思い浮かべ、城下街をぶらつく。
そして唐突に奇術でも見て自分の魔法制御のヒントにでもしようと、思いつきのまま奇術館へやってきた。魔族らしく、自由であるのはいいことだろう。
チケットを購入したゼオは一人、空いている席を見つけて開演を待つ。
すると、隣の空いていた席に誰かが座った。
薄暗い為よくは見えないが、シルエットとなんとなく見えた様相で鬼族の男だとわかる。プライドの高いあの鬼族か。
存在を認識したと同時に、いつの日か書庫で嗅いだ……なんとも言えない不思議な香りが、鼻孔をくすぐる。
「?」
魔族ひしめく会場。
しかし、香りがどこへも散らない。
ゼオは改めて隣の席に座った男を見た。
柔らかそうな黒い髪で、額に二本の細い角が生えている。グレーのマントに何の変哲もない一般的な普段着。
意志の強そうな瞳がステージを見つめ、開演を待っていた。
「……すみません、あなたは魔王城にお勤めの方ですか?」
「?ええと……?」
耳に触りのいい少し低い声だ。
不審そのものな声のかけ方だったのに、彼には嫌悪の色はなく、誰だろうという疑問だけがある。無防備だな。
「あぁ……怪しいものではないですよ。俺はゼオルグッド・トード。城に仕えていまして」
「なるほど。俺はシャ、……シャ、シャウルー・ウォーカーだ。確かに普段は城にいる。シャルでいい」
「では俺はゼオと」
いる、か。
少し言い回しが気になったので、ゼオは不法入国者かと思い目を細める。面倒だが不審人物を放ってはおけない。
だがどこかの兵にしては、偽名の名乗り方が今しがた考えたような言い方だ。
魔王城のお膝元に侵入するなら準備が雑じゃないか?
それに城にいるなんて、城仕えと名乗ったゼオに対して無防備すぎる。他国の間者なら、陸軍長補佐官の名前を知らないのも生温い。
そんな理由から、ゼオは違和感を気に留めて置くだけにしておくことにした。
正直に言うならオフにまで仕事はしたくない。
ただでさえスケコマシ長官のせいで普段の業務に書類仕事が増えているのだ。
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