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第157話
奇術館の中は栄えているのかたくさんの魔族でごった返していて、キョロキョロしている間にリューオと逸れてしまった。
ちょっとしたコンサート会場ぐらい広さのある劇場なので、下手に追いかけても余計な時間を食うだけで席に座れなくなってしまう。
公演が終わってここから出れば、退場客の中できっと見つかるだろう。
そう考えてとりあえず空いていた席に座った俺は、隣に座っていたいつぞやか拾った栞の持ち主だというゼオと話が合い、一緒に奇術ショーを見ている。
流石に隣りに居た男が城仕えの魔族だとは思わなかったな……。
どこかで俺とニアミスしているかもしれないし、アゼルの結婚相手と言うことで名前ぐらいは知られてそうだ。
偽名を使って詳細もぼかしたのだが、怪しまれてそうな空気を感じた。内心焦っていたけれどなんとかなったぞ。
魔王の相手=人間。
これはアゼルの手を出さないように認めさせる活動により、周知されているからな。
俺は胸の内でほっと息を吐き、華々しく開始を宣言した舞台上の司会に拍手を送った。
奇術ショーは圧巻の一言だった。
魔法を使った娯楽なんて、現代ではありえない。この世界でも人間国ではそうは見れないようなもの。魔族の集まる魔界だからこその世界だ。
鬣が炎である炎獅子の水の輪くぐりは天井から十の水の輪が吊り下げられ、頭の上を走り回る獅子にハラハラドキドキだったし、動く雪だるまことジャックフロストによる氷像造りは繊細な芸術品。
セイレーンとマーメイドの合唱は耳を奪われて暫く夢心地から帰ってこられなかった。言うまでもなく魅了の状態異常だ。
ドッペルゲンガーの一人演劇もよかったし、ドライアドの舞台上から天井までの花畑も素晴らしい。魔法だなんて信じられないくらい草木の香りが鼻腔をくすぐる。
みんな自分の能力をよく理解してうまく魅せている、見ごたえのあるショーだった。
表にさほど出てないかもしれないが興奮気味の俺は、パチパチと拍手をして次は何だろうと舞台を一心に見つめる。
するとずっと無表情でひたすらにショーを見ていたゼオが、不意に話した。
「次から、一般参加ですよ。こっちは毎回出演者が変わるから、一発屋から玄人の魔法使いまで色々です」
「そうなのか、それはそれで楽しみだ。さっきまでだけでも、俺達の席が遠いのが悔やまれるくらいの出来だったからな……」
俺達の席は正面だが舞台からは少し遠かった。
演者は豆粒サイズでもなにをしているのかはわかるから、見る分にはかまわない。
ゼオはプロの奇術師の技を見ていた時より、なんとなく愉快げな気がした。表情が変わらないので読みにくいが……。
偶に来てもそこまで代わり映えのしないらしい奇術師達より、どんなものかわからない一般参加の方が楽しみなのかもしれないな。
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