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第158話(sideアゼル)
「さぁー!素敵な水魔法でしたね!お捻りは手元のボックスへ!」
大きな拍手と司会が前の演者の演技の終了を知らせる声を上げる。
事前に言われたプログラムによると、次は俺だ。
ドキドキと緊張する胸を抑えてゴクリとツバを飲み込む。
なんの緊張かって?
そりゃ誰よりもイイ演技をしてシャルに一番すげぇ演者だと思わせるために決まってんだろ!
例え見惚れるような魔界一番の演者でも、シャルに俺よりイイと思われるヤツなんて嫌いだ。
アイツの一番は俺だ!
控室に詰め込まれている間にいろんな一般演者を見ていた俺は、当初の目的をどんどん忘れて「俺以外に見惚れられてたまるか!」という思考に持って行かれていた。
『行ったらまず客席を見て匂いからシャルの位置を特定、そこへ向かって一心に演技。これまでの拍手の量から、客は派手で美しいものが好きな傾向にある。魔法メインで盛り上げを作ってフィナーレは盛大にやるべき』
なるほど、俺の魔力量と魔法センスがイイのはこの為だったのか。
俺はぶつぶつ呟きながら自分の無駄に器用な才能に感謝する。
大丈夫、狼形態の俺なら人混みの中でもシャルだけの匂いを見つけることができるはずだ。そしてベストパフォーマンスを見せつける。
フッ簡単な仕事じゃねぇか。
脳内リハーサルは完璧。
「さてお次の一般演者さんは、人の言葉を理解する賢い魔物!狼のマオくんでーすっ!」
パチパチパチパチパチパチ
司会の呼び声に、俺は颯爽と舞台に駆けて飛び出した。
拍手の中をくぐり抜け、眩い照明魔法に照らされる。
中央にちょこんと座り、すぐにキョロキョロと見回すと正面の奥の席で愛しのアイツを見つけた。
そして同時に遠吠え、もとい断末魔を上げ──真っ黒な狼のくせに真っ白になる。
「アオオォォオォーーーーーーーンッ!?!?(なんでゼオがいるんだああああぁぁぁぁぁあ!?!?)」
「いいぞ狼!ブラックハウンド?ダークウルフ?」
パチパチ
「よっ!いい声だぜ~ッ!」
ヒューヒュー
有象無象ども!ヤジをやめろ!
わなわなと震え、リューオがいるはずのシャルの隣を見つめて言葉を無くす俺。
間違いねぇ、あの寒々しい目は我が魔王軍陸軍長補佐官、冷血のヴァンパイアハーフ。
俺のお散歩形態を知らないから気が付いてないみたいだが、早く演技を始めろとばかりに威圧感を出してやがる。
客のくせにどんだけふてぶてしいんだ。今日の秘密護衛モードな俺の方が民草に紛れられてるだろ。ふふん。無人サークルも形成してねぇかんな。
そんな無表情のゼオと対照的に、キラキラと期待に満ちた目をしてる俺の嫁。
かわいい。畜生。存在がかわいい。ムカツク。真顔なのに目だけキラキラしてるかわいい。自重しろ。パチパチと拍手をしてる仕草もかわいい。かわいいが過ぎる。
あまりのかわいさに「俺の前以外でかわいいを出すな」とキレそうになったが、シャルは常にかわいいを出しているので、怒りを収めた。
仕方ねぇ。あいつ等が一緒にいる経緯はわからねぇが……俺の今の仕事ははあのキラキラに応えることだ。そして拍手を貰って、すごいなってしこたま褒めて貰うのだ。
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